野分あとの人 -あこがれの老夫婦(1)-

野分のあと

 以下は近所で目にする情景である。

 ふたりとも90歳に近いのではないかと思う。
 でも健康に問題はないのだろう、天気のよい日には、漫才コンビのようにいつも夫婦いっしょに庭に出て、なにかごそごそやっている。

 野菜づくりはしてないようだが、することがよくあるものだと思うくらい、しょっちゅう庭で何かしている。年齢相応にゆったりとした動きではあるけれど。

 子や孫は家にいないようだ。それらしい姿を見たことがない。
 なにより家全体の雰囲気というか、匂いが老夫婦ふたりのものである。
 子供や孫たちは遠くに住んでいるのかもしれない。
 
 家は、築7,80年くらいは経っていそうな古い木造家である。
 むかし建てられた家屋に多いように、庭が広い。幅広の縁側が付いているのもわしなどには懐かしい。庭木もみな大きく育って豊かだ。
 
 その庭木も、夏から秋にかけて台風の多い時期には、枝が折れて落ち葉とともに辺りに散らばる。
 
 だが雨風が通りすぎると、すぐ夫婦ふたりして外に出て片づけを始める。
 老夫は小ぶりのノコギリを使って折れ枝を短くして束ね、老妻は枯葉を拾いあつめてポリ袋に入れる。そして小分けしてすこし離れたゴミ収集所へ、ふたりいっしょに何度も往復しながら持っていく。
 言葉をかわしている場面に出会うとは多くないが、二人のあいだにはいつも、いっしょに力を合わせて何かをしているときの気持ちのいい空気がただよっている。

 おそらく一区切りついたら縁側に腰をおろして、熱いお茶を手に、きれいに片づいた庭を眺めながら、ぽつんぽつんとことばを交わしているのかもしれない。
「今年はいつもより量が多かったね」
「そうねぇ。そんなに風が強かったようには思わなかったけど・・・」
「わしらと同じだよ。老いてきたんだ、木が・・・」
 などと・・・。
 
 (次回もこの続きを書きます)

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