大丈夫、と言われると・・・

大丈夫

 台所のガスレンジからときどき、ボッボッと変な音がする。
「大丈夫かしら・・・?」
 と不安そうな顔をする女房に、
「大丈夫、大丈夫」
 と明るく言うと、よけい心配そうな顔になる。
「ほんとに大丈夫? 爆発したりしない?」
「大丈夫だって。バクハツなんて大それたことにはならないよ、こんなことで・・・」
 と声を強めると、いっそう不安そうな顔になる。
 
 カクノゴトク、大丈夫だと言われると、かえって不安になるおかしな心理が人間にはあるようだ。
「大丈夫、絶対!」などと、お尻に「絶対」を貼り付けられると、逆に「あ、これは、絶対あぶないかも・・・」と頭の隅に黒いゴキブリが走ったような気になる。

 一年ほど前、友人に強く勧められて、わずかだが仮想通貨を買った。
 こういうモノに手を出す人間は、たいてい余った金を持っているやつが多いから、そういう人から見ればハシタ金だろうが、わしらにとってはまさになけなしの虎の子をはたいたのだった。
 
 そもそもその友人が私に強く仮想通貨を勧めたのは、わしの懐が慢性金欠病なのを知っているからである。元銀行員の彼は、仮想通貨について猛烈に勉強し、いま買っておけば将来数倍・数十倍になると確信して、わしを “不如意のドロ沼” から救い出してくれようとしたのである。
 
 だが、それからしばらくすると通貨は下がりはじめ、その後もどんどん下がって、今は買ったときの数分の1になっている。
 買う決断をしたとき、これは一種のギャンブルだ、数倍になるかもしれんが、ゼロになる可能性もある。やるならそれを前提として、覚悟してやれ!・・・と自分にも女房にも確認して始めたはずだった。
 
 だがそうはいっても実際に値が下がってみると、忸怩としたものが腹の底に湧いてくる。
 やっぱり “濡れ手に粟” なんてことはこの世にはありえないのだ・・・などと、80年余も生きてきた人間にしては低レベルのグチがクチの端からこぼれそうになる。
 
 だがわしを誘った友人は今なお意気ケンコーだ。
 現在値を下げているのは、去年偶発的に起きた事故(ある仮想通貨取扱所から数百億円が盗まれた)の影響が尾を引いているからだ。ほとぼりが冷めればまたじわじわと上がってくる。仮想通貨の本質からいってそれはまちがいない。とにかくそれまで辛抱づよく待つことだ、と力説する。

 彼は一点のくもりもない顔で言う。
「大丈夫。絶対に大丈夫」
 だが冒頭に書いたように、そう言われるとかえって、背中に不安の虫がもぞもぞと這いのぼる。
 コマッタもんだナー。

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