やはり野に置け

 TBSテレビに「プレバト」というバラエティー番組があって、よく見る。
 
 最初は、プレバトってどんな鳩? くらいの関心だった。
 そのうち「プレバト」は「プレッシャー・バトル」を縮めたものだと知ったが、やはり何を意味するのかよく分からなかった。

 この番組は、俳句や絵(それも色々なジャンルの…)や、生け花や料理などの習い事をあつかっている。
 芸能界の著名人たちを集めて、各回ごとにテーマを与え、俳句や絵などを創らせて、その作品の出来栄えを競わせるのである。
 
 ジャンルごとに、その道のプロの達人が審査にあたる。
 その審査の結果、出演者たちは「才能あり」「凡人」「才能なし」のいずれかのグループに分類される。
 
 「才能なし」グループはもちろん、「凡人」グループに入れられるのだって、出演者にとってはソートーに自尊心を傷つけられる状況だろう。

 ・・・だけではない。毎回、出演者全員に序列がつけられる。
 作品の出来栄えによって、最高位から最下位まで順位づけられて、名前が発表される。そして、これ見よがしに段差をつけたランキング椅子に座らせられるのだ。
 
 まだある。最高位を与えられたなかで特に才能ありと認められた者は、「特待生」の称号が与えられて、もう一段上の地位に上がる。

 その特待生にも等級があり、昇給試験によって5級から1級まで順に上がっていく。
 さらにその上には「名人」制度があって、初段から10段まであり、最後は「永世名人」である。

 ふだんから競争心や嫉妬心が人一倍つよく、負けず嫌いが多いのが芸能人だろう。
 そんな彼らの対抗心を、こうしていやがうえにも掻き立てるのが番組の狙いにちがいない。
 出演者たちにかかるプレッシャーはハンパじゃないだろう。
 というわけで、番組名の「プレッシャー・バトル」はここに由来するのであろうと推測する。

 扱われる習い事のなかで特に人気が高いのは・・・したがって番組の中心に据えられているのは、俳句である。
 この俳句の添削と審査を担当するのが夏井いつきさんだ。
 彼女は俳句甲子園などの創始にかかわった知る人ぞ知る俳人らしいが、わしは知らなかった。いきなり世間で有名になったのは、やはりこの番組あってのことだろう。
 
 それにしてもこれほど著名になったのは、わしの考えるところ、彼女の番組内での添削ぶりが爽快だからだと思う。
 
 もちろん、俳句作品にたいする文芸的な添削もわかりやすくて悪くないと思うが、梅沢富美男や東国原英夫といった芸能界きっての猛者を相手にするとき、この還暦を超えた初老の女流俳人は、余人のおよばぬ鮮やかな能力を発揮する。
 猛獣どもがどのように傍若無人な吠え声をあげようと、怯むこともたじろぐこともみじんもない。即座に切り返して相手を絶句させる場面がたびたびある。
 
 たとえば梅沢富美男の作品・・・それも作者が特に気合を入れて作り、ひそかに自信をもっていた作品に遠慮のない辛口の添削をされると、梅沢はカッとなって顔を赤くして叫ぶ。
「おまえに何がわかるッ、このクソババア!」
 すると夏井は平然と言い返す。
「クソジジイに言われたくない!」
 
 誰の作であれ、作者がとりわけ力を入れてひねり出した語句は、夏井の鋭い爪に引っかけられことが多い。「こんなところでカッコつけてる場合じゃないよ!」と容赦なく赤線が引かれて切り捨てられる。
 ともあれ彼女が猛獣の泥足に踏んづけられて口ごもる場面は、いちども見たことがない。
 
 そんな夏井いつきだが、NHKの俳句番組にもときどき出演することがある。このときの彼女はまるで別人だ。

 「プレバト」のときの彼女が、悠々と空を旋回する鷹だとすれば、NHKに出るときの彼女は竹林のなかでチュンチュン鳴く雀だ。もしくは人家の軒先でボーボー鳴いているハトだ。

 もちろんここでも彼女は、自身の俳句観や創作信念にもとづく発言はしているのだが、その言にはなぜか視聴者を引きつける魅力がない。
 プレバトのときのように、本業では一目も二目も置かれる著名人たちをバッサバッサと切っていく勢いやカッコ良さがない。
 ま、場を考えれば当前だけど・・・。

 ともあれ夏井いつきは人によって好き嫌いのある俳人ではあろうが、そんな彼女には次の俗言が思い浮かぶ。

「やはり野に置け月見草」
 
 この「月見草」は、「蓮華草」とも「スミレ草」とも言われるようだが、夏井いつきさんには次の草名が似合う・・・かも。
 
「やはり野に置けノコギリ草」

 

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やはり野に置け” に対して 2 件のコメントがあります

  1. むらさき より:

    私もこの番組が大好きで、毎週欠かさず観ております(///ω///)♪
    梅沢さんといつき先生の掛け合いもたまらんよね~
    そして、感心するのは、芸能人のみなさんの才能(///ω///)♪

    1. Hanboke-jiji より:

      やっぱりむらさきさんも好きですか。
      たぶんそうではないかと思ってましたけど。
      わしも晩酌ちびちびやりながらこの番組を見て
      ゲラゲラ笑っているときは、幸せですな。

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