親 友(2)

釜ゆで

 当記事は続きものなので、今回を読むまえに、前回にも目を通しておいてね。意味わからなくなるからねぇ。(前回はこちら

 紙のうえに文字を書くなど、親への連絡ハガキくらいしかなかったのに、コトの成り行き上、部活として入った演劇サークルの上演台本をムリヤリ書かされるハメになった・・・ところまで前回に書いた。
 
 実際の話、七転八倒した。

 ”釜茹で地獄” というのを聞いたことがあるが、これはもう “釜茹で” とおっつかっつ(ほぼ同じ)だと音をあげた。
 だがそうなったのは文字どおり自業自得であり、自縄自縛だった。誰に文句を言うわけにもいかない。
 辺りを見回しても、手を貸してくれそうな者は誰もいなかった。
 なぜかひとりだけわしを支持してくれたSにだけは、助けを求めたくなかった。推してくれているからこそ、中身空っぽの実体を見せたくなかった。それくらいなら、ひと思いに熱湯たぎる釜の中に飛び込むほうがましだった。空っぽにも空っぽなりのプライドというものがある。

 ・・・とはいうもののそんな勇気はないから、唯一できる最後の手段、開き直って肚を据えた。
 ここはわが人生最大の関門だ。これを突破しなければ、今後のわしの人生はナメクジだ。
 ・・・などと歯を食いしばった口の中に、上の方から落ちてきた涙がしみ込んでショッパイ・・・みたいな根性もの少年漫画そのものの苦渋を味わったが、それは当記事の本題ではないのでこれ以上は触れない。(・・・といって既にもうけっこう触れたけどね)
 
 何より今ふり返って驚くのは、そんな最悪の状態で書いた台本(ホン)を、厚かましくも部員の前に差し出して披露したことだ。
 当時の・・・つまりうき世の波風にもまれる前のわしの心臓は、今より何倍も大きくかつ堅牢だったことは間違いない。

 そのホンの検討会が、全部員が集まって開かれた。
 皆は、捕まえた獲物を食べる前に弄ぶネコのようだった。
「いちおう、読めることは、読めるけどな」
「日本語で書いてあるもんな」
「おかしな日本語もあるけど・・・」
「ときたま新鮮な表現もあるよ。けどそれはサ、幼児が舌足らずで使った言葉が、たまたまちょっと面白い比喩になってたって感じね」
「そういうの親は、うちの子は天才かも・・・って思うんだよね」
「親じゃなく当人がそう思ってたりして・・・」
 まさにじゃれてあそぶ猫。そんな中でまじめな声がした。
「冗談は抜きにして、ぼくはけっこう面白いと思うよ」
 またしても支持してくれたのがSだった。
 
 それから、ももちろん紆余曲折はあった。だがヒョータンからコマのていで、結局、次の公演でわしの書いたその作品を、Sの演出で上演することになったのである。
 
 そんなことになろうとは夢にも思っていなかったので、驚いたりうろたえたりしたのは、誰よりもわし自身だった。
 
 そもそもこれが、わしを間違った道へ誘い込む出発点となった。
 まさしく、人生一寸先は闇、何があるか分からない。
                     (続きは次回)

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