自転車通学の女子高校生

自転車通学の女子高校生

 前回、わが人生で初めての恋(らしきもの)を書いたが、もう一つあったのを思い出した。高校生のときのことである。
 しかしまあこっちは、実際は「・・・らしきもの」とも言えないその前の段階、「恋の匂いのようなもの」かもしれない。
 
 わしの通った高校は、その地方では比較的大きな隣町にあって、生徒は周辺の村や町から自転車で通学した。
 わしも自転車で通っていたが、通学路が途中で別の町からくる道と合流する。その道をやはり自転車でやってくる女子高校生たちがいて、その中になんとも魅力的な女の子がひとりいた。

 いわゆる美人というのではないが、色が白くて、どことなく品がよくて、いわゆるわしの好みのタイプ。
 何よりもいいのは、ツンとお高く止まった感じがまるでしないところが良かった。とにかく体全体というか、存在そのものからかもし出す雰囲気が育ちの良さを感じさせて、わしはもう理屈なしに (・・・といってもうだいぶ理屈を並べたが)ゾッコンになった。

 しかしその子と出逢えるのは、そう度々ではなかった。何しろ出会えるか出会えないかは、すべて偶然の支配下にあったからだ。

 だから毎朝、今日は出会えるかもしれない、今日こそは出くわすかも・・・と期待してはがっかりする日々をくり返していた。

 朝家を出る時間を微妙に変えたり、自転車をこぐスピードを速くしたり遅くしたり、ま、いろいろチャチな工夫もしたが、結果につながることはほとんどなかった。
 後をつけていって話しかける勇気など、まるでなかったしね。

 そういう時間が一年以上も続いたのだから、まったく若いというのは凄いものだ。何が “凄い” のかよく分からないけど・・・。

 ・・・と書いておいて舌の根も乾かないうちにナンだが、考えてみればそのお陰で、学校へ行くのがイヤにならなかったということはある。

 ひょっとすると今日こそ彼女に出遭えるかもしれない・・・というアエカな希望があったからこそ、クソ面白くもない陰気な授業が一日つづく学校へ、毎朝出かけて行く元気が出たのである。
 これはある意味 “凄い” ことではないか。

 それに引き替え現在は、生きるのに絶対必要な食べものの買い出しにさえ、今日は体の調子が悪いから出るのをやめよう・・・とか言って、栄養のない夕食を食してよけい体を弱くしたりしている。
 
 ま、これが人間を長年やったあとの、使用前と使用後のリアルな現実でアリマス。
 

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