それ不可能! と笑ったが・・・(上)

台風で倒れた物置き

 早いものだ。
 もうすでにひと月が過ぎようとしているが、去る10月1日の夜は、台風24号の通過で、わしが住んでる辺りにも強い風が吹いた。

 夜が明けて、風もしずまった午前7時過ぎだった。友人のSから電話が入った。
「台風で小屋が倒れたんだだけど、起こすのに自分ひとりではムリなので、助けてほしいんだけど」
 声がいつもと違った。小屋が倒れて、小さなパニック状態に陥っているらしかった。

 だが、悪いが笑ってしまった。わしは81歳で、友人のSはわしより一つ上の82歳だ。ふたり合わせれば163歳の高点になり、コンビ年齢競争なら8位入賞くらいはあるかもしれんが、倒れた小屋を引き起こす競技では予選通過もムリだ。

 にもかかわらず、Sがわしに電話をかけてきたのには、じつはそれなりの理由がある。

 わしはふだん、Sのパソコンの “お助け人” をしている。彼がパソコンをやっていてつまづいたら、電話をかけてくる。
「何もしてないのに、パソコンが突然ウンともスンとも言わなくなっちゃったんだけど、どうすればいい?」
 ほんとはパソコンだって、何もしないのに不機嫌になることはあまりない。何かしているのだ。ただ、した当人が気づいていないだけで・・・。
 
 ちょっと話がそれるが、これ、人間にもよくある。悪意はまるでないのだけれど、相手の気にさわるようなことを無意識に言ったりしたりして、怒らせてしまう人間・・・。わしの近くにもひとりいる。
 
 Sのパソコントラブルも同じ。当人は気がつかずに余計なキーを叩いたり、クリックしてはいけないところをクリックしたりしている。それでパソコンが機嫌をそこねる。で、電話がかかってくる。
 台風の翌朝の電話は、Sの頭のなかで、ヘソを曲げたパソコンと倒れた小屋が混線しているらしい。

 誰でもすぐわかるが、倒れた小屋を引き起こす援助を、わしに求めるのは明らかに筋チガイ。倒れているのは小屋じゃなくて、あんたの頭のなかの建て付けじゃないの・・・とほとんど口から出かかった。

 そう、お察しの通り、実はSは少々ボケている。認知症の戸を開けて中を数歩あるいている。

 そのこと(つまり電話の混線)をSに言って分かってもらおうとしたのだが、なかなか分かってもらえない。
 あんたは電話をかける相手をまちがえてるよ。わしではなく、わしが前回の記事に書いた「蛸入道」のような大男にかけるべきだ、とやさしく言うのだがトンと通じない。(前回の記事はこちらから) 

 こりゃ電話じゃダメだ、とわしは思った。
 パソコンのときもそうなのだ。電話でアレコレ言っても通じないので、結局、毎回Sの家へ足を運ぶ。
 もっとも今回はわしが行っても、どうにかなるわけでもないのは分かっている。でも実際にSの目の前で、限りなくゼロに近いわしの筋力を見せてやれば、それなりに分かるのではないか、と思ったのである。

 しかし、Sの家へ行く途中でふと思った。
 彼の家に小屋などあったかなァ・・・と。
 Sの家には何度も行っているが、母屋以外に小屋もしくは小屋らしきものを見た覚えがない。
 最後に行ったのは3ヵ月くらい前だから、その後に庭にでも建てたのかもしれん、彼は金を持ってるから・・・とも考えてみたが、建てたばかりの小屋が、あのていどの風で倒れるだろうか・・・とも思った。
 いやそもそも、いつお迎えがきてもおかしくないような人間が、今さら何のために棺桶ならぬ新しい小屋など作るのか?・・・という根本的な疑問も浮かんだ。

 そういえば、彼には40歳を超えて独身の息子がひとりいて、同居している。その息子が必要があって建てたのかもしれない。そうだ、それしか考えられない。

 ・・・と、何とはなくほっと安心した気になったのもつかの間、しかしだとしたら・・・とまた思った。息子が建てた小屋なら、倒れた小屋の面倒は息子がみるべきじゃないの? 父親とはいえ80を超えて認知症ぎみの爺さんが、半ボケの80爺ィの助けを乞うてまでしてやることじゃないんじゃないの?
 ま、いいや、どうせ行けば分かるんだから・・・と思っているうちにSの家に着いた。
 
 話はまだ途中なんだけど、1回分としてはすでにだいぶ長くなったので、続きは次回に回すことにする。じつはこのあいだ、信頼している友人から、あんたのブログ少し長すぎる、途中で疲れちゃう・・・って言われたの。で、きょうは短めにと意識したんだけど、やっぱりまだ長いなァ・・・。

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