人生さまざま
気分転換のためによく外に出て散歩をする。
そのとき歩くコースのひとつに、S川沿いの遊歩道がある。
S川は大きな川ではない。川幅15~20メートルくらいだろうか。
その川の両脇に、父親の両手にぶら下がった双子の子供のように、遊歩道が付いている。水の瀬音を聴きながら歩くのは気分がいい。
この川に身を寄せるようにして、団地がある。
これも大きな団地ではない。同じ外観のコンクリー造りの集合住宅が、川の両側に7棟ずつ1列に並んでいる。
5月に入るとこの団地がとつぜん賑やかになる。上空で巨大なくす玉が割れたよう。
S川の上に、何十匹という鯉が泳ぎ出すからだ。
毎年この季節になると、川べりの2棟の集合住宅の屋上から、川を挟んだ対面の集合住宅の屋上へ長い綱が張り渡され、その綱に結ばれた数十匹の鯉のぼりが勢いよく泳ぐのである。それを観に集まってくる人たちもいる。
いったいどのようにしてこの長い綱を、しかも何十匹もの鯉や吹き流しを連れて川の上に張り渡されるのか、いちど見てみたいと思うのだが、残念ながらその作業現場に出合ったことはない。
ともあれ、5月の青い空に多数の鯉のぼりが、風をはらんで上になり下になりして泳ぐ光景は、下の川面にその影が映ることとも相まって、見るものを勇壮で爽快な気分にしてくれる。
そんな鯉のぼりたちを眺めていると、彼らの生きざまも様々であることがわかる。
隣どうしの鯉がはげしくぶつかりあい揉みあって、まるで格闘しているように見えるものもあれば、緋鯉と真鯉が体を寄せあい擦りあって、さながら男女の睦みあいを見るようなのもある。
風に煽られてだろう、頭部ちかくで親綱に巻き付いてしまい、吸い込む風を断たれてダランとぶら下がっているのもいる。まさに息絶えているよう。
鯉のぼりにも運のいいのと悪いのがいるのだ。
人間と同じように。
端午の節句はあさって。
もう少し彼らの人生を楽しめるだろう。
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。