名医も人間(下)

治療椅子

 ”優れた医師(& 歯科医)と出会うことは、一生の一大事業である” と言われるくらい、真の名医に巡り合うことは難しいが、わしは奇跡的に名歯科医に出会ったことがある。・・・といういきさつについて前回に書いた。(前回はこちら

 ところが、前回に述べたように、歯科医としては非の打ち所がない完璧な人間でありながら、彼は思いがけない裏面を隠し持っていた・・・という事実がその後見えてきたのである。今回はそのことについて書く。
 
 わしはかつて、体だけでなく歯も大健康優良児だった。それには理由があって、生まれ合わせたのが第二次世界大戦前後の大食糧難時代で、幼児・子供のころ砂糖などの甘いモノは、フォアグラやトリュフ並みに口に入らなかったからである。
 
 で、中年になるまで、虫歯を筆頭に歯に関して不都合なところは全くなかった。表彰されたくらい。
 50歳辺りまで、歯科医がこの世に存在することさえ、意識の中になかった。

 しかし実は40代半ば過ぎから、歯ぐきに沁みるところが出ていたのである。でも小学生のとき健康優良歯で表彰された自分の歯に、問題があるなどとは夢にも思わなかったので、長いあいだ放置していた。
 その結果、今に至るまで歯に苦しめらることになる。アホな生き方の典型だった。・・・とその後ずっとイタク後悔している。
 
 で、50歳前後から、歯を磨くとブラシに血がつくようになった。何より熱いものや冷たいものを食べると、ひどく歯に沁みる。食事を楽しむどころではなくなった。
 ようやく重い腰をあげて、歯科医の門をたたいた。もちろんカミさんが開拓した例の名歯科医の所へ行った。
 
 その時はまだ一本の歯も抜けていなかったが、ほぼ全歯が歯周病にかかっていた。いかに名医とはいえ、カミさんの時みたいに2,3回の治療で済むわけにはいかなかった。その後何年も、月1回の通院を重ねた。
 
 1年ほど経ってからだろうか、あることに気づくようになった。
 前回で述べたように、最高級の雰囲気だった診療所が、どことなく荒んできたのである。
 
 以前はそんなことは全くなかったのに、ちょっとした所にホコリが溜まっているとか、あたりの書類や置き物がどことなく乱雑に置かれている。あきらかにきちんと目が行き届いていないようになった。
 
 しかし何より目についたのは、受付嬢や歯科衛生士など、女性従業員の客にたいする対応が丁寧ではなくなったのである。・・・というか明らかに荒っぽくなった。やや強くいえば、半ばサジを投げたような仕事の仕方である。
 ここのようなハイクラスな歯科診療所では、少々異常だと思わずにおれなかった。

 で、あるとき、待合室で隣に座った客に、辺りにスタッフがいないときを見計らってその話をしてみた。最近、ここの従業員の態度が少しおかしくありませんかと。
 
 その人は60歳くらいの良家の奥さん風の婦人だったが、まるで待っていたように顔を寄せてきて、小声で言った。
「ここの先生、女性にだらしがないんですよ」
 まるでその現場を自分の目で見たかのような、自信たっぷりな言い方だった。
 
 「腕のいい先生なのにねぇ」と応じると、婦人はつづけて何か言おうとしたが、看護師のひとりが部屋に入ってきたので、急いで口をつぐんだ。
 
 その歯科医院が、それまであった超一級地から少し離れた二級地に移ったのは、それから3ヵ月ほど経ってからである。
 
 ”人間だもの” という相田みつをの言葉が一時期流行ったことがあるが、いいにつけ悪いにつけ、人間というのはなかなか一筋縄ではいかない。

 メンド臭いけど、だから面白いとも言えマスがね。
 

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