知ってますか、コミュニケーションの奥義

コミュニケーションの奥義

 シドニー五輪の女子マラソンで金メダルを取った高橋尚子さんが、テレビのトーク番組(TBS「サワコの朝」2017.12.17)に出演してこんな話をしていた。

 当時の彼女の指導者だった小出義雄監督は、朝起きて顔を合わせると必ず、「高橋、お前は世界一のランナーになれるよ、ちゃんと練習すれば・・・」と、365日 毎日言いつづけたという。

 最初は元気づけのために言ってくれているのだと思っていた。だが、毎日毎日、何ヶ月もそう言われ続けていると、ふしぎなもので、だんだん自分でもそんな気がしてきたという。そしてそのためにはちゃんと練習しなきゃあ・・・という気持ちになったそうだ。

 また小出監督は、選手によって対し方を変えたという。
 たとえば、バルセロナ五輪で銀メダル、アトランタ五輪では銅メダルを獲得した有森裕子には、とてもていねいな対し方をしていた。ジョークめかしてであろうが時に「有森先生」と呼ぶこともあったらしい。ところが高橋尚子には、常にああしろこうしろの指導口調、まさに先生と生徒という関係だったそうだ。

 先日、ある知人と雑談をしていたら、何かのきっかけでこんな話が出た。
 彼は工業高校の教師として、定年まで40年近く10代後半の子供たちと付き合ってきた。その間(特に前半は)学校は毎日が戦場だったという。

 彼はまじめな人間で、いわゆるサラリーマン教師になることをいさぎよしとしなかった。教師はどうあるべきか、何をどう教えるのが教師の務めなのか・・・ということを常に考えながらやってきた。こういう教師もいるのだ。数は少ないだろうけど。

 その彼が言う。子供たち(高校生)に正しさや善を語って通じたことは一度もなかった、まるで鉄の壁に矢を射るようだったと。

 人間として基礎を形成する年齢の子供たち。そんな時期の彼らに教えるべきだと彼が考えたこと・・・人間はこうあるべきでだ、こう生きるのが正しい・・・そういった客観的には誰にも否定できない正義や道理を語っても、彼らの耳にはまったく入らなかった。
 気合を入れて、魂をかたむけて語ってもダメだった。いや逆に、反発心を起こさせただけだ。前日、全身全霊をこめて語りかけたことと逆のことを、彼らは翌日にやった。

 彼は長いあいだ苦しんだ。どうすれば生徒らと心を通いあわせることができるのか。どうすれば話す言葉が正常に機能して、コミュニケーションを成り立たせられるのか、と。

 40代半ばになって、ようやく分かってきたことが一つある。
 客観的にはどんなに正しくまっとうなことでも、それを教師として生徒に教え諭すスタンスで話すと、彼らの耳には入らない。鼓膜のところではじき返されてしまう。
 しかし、彼らと同じレベルに身をおいて話すと、排水管のとちゅうで詰まっていた異物が流れだしたように、言葉が通じるようになる。

 より具体的にはまず子供たちの話を真剣にきく。徹底的にきく。自分勝手な幼い言い分であっても、とにかく聞く。反論しないで聞く。
 そうすると、子供たちそれぞれの生きてきた背景、というか、その個人の人生が見えてくる。どういう性格で、親はどういう人たちで、どういう状況に今いるのかが分かってくる。そのなかで彼らが何を考え、何を感じ、何を大切に思っているかが見えてくる。

 それは子供たちひとりひとりで違う。顔や指紋がちがうように違う。そして、たとえ彼らの言い分に賛同できなくても、切り捨てない。少なくともそういう人間がこの世に存在する現実はみとめる。もっといえば許容する。
 それはできるはずだ。なぜなら、自分だってこの世に存在するもうひとりの人間なのだから。

 そういうスタンスで生徒と話をする。その上でこちらの言いたいことも率直に言う。そうすると嘘のように言葉が通じ始めるという。ともあれ彼らの鼓膜で跳ね返されないで入っていき、心に達する。その心が反論してくれば、こちらもそれに再反論する。それができる。つまりコミュニケーションが成り立つ。

 彼(元高校教師の知人)はいう。結局、人間のコミュニケーションは「関係性」のなかでしか成立しないと。その関係性はむきあう相手によってすべて違う。当たり前である、人間個々人はすべて違うのだから。
 その違う関係性のなかで話をして初めて、言葉のやりとりが可能になる。真のコミュニケーションが成り立つ。

 高橋尚子や有森裕子といった五輪メダリストを育てた小出義雄監督が、選手によって対し方を変えたというのも、このへんの人間関係の機微をこころえていたのだろう。だから名監督になれた。

 それにしても、人間というのはむずかしい。

 
ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

にほんブログ村 その他日記ブログ 言いたい放題へ
(にほんブログ村)

Follow me!

知ってますか、コミュニケーションの奥義” に対して 2 件のコメントがあります

  1. むらさき より:

    勉強になるな~♪
    納得するわ~♪
    これだから半ボケじじいのブログは、気が抜けないのだ!
    たま~に良いのをぶっこんでくる(笑)
    さすが人生の先輩だ!尊敬しております!
    これだから、たまのエロじじいも、バカやろうじじいも、チャラになっちゃうのよね~
    何回も読んで、自分にたたきこまねば!!!

    1. Hanboke-jiji より:

      まあ、たまには多少マトモなことも言わないと、
      この半ボケじじィ、ボケがだんだん堂に入ってきて、
      本ボケになってきたわ・・・と言われちゃうからね。
      それでむらさきさんみたいな人に来てもらえなくなると、
      やっぱり淋しいもん。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です