人は変われる
「ライザップ」って聞いたことある?
わしはテレビのCMで知った。
この「ライザップ」のCM、良くも悪くも強烈なCMだよね。
前半部分に、ほとんど見るにたえない体形の人間が出てくる。
ぶよんぶよんに太った男や女を回転台に載せて回し、360度から容赦なく見せる。
その映像に「ブーぅ、ブーぅ」といった、老いた巨大豚の放屁みたいな音楽というか効果音をつける。
いちど見たら「うぇー、人間、こうなったらオワリだ!」と思わずにおれないが、後半一転する。
筋肉質のひきしまった体。余計な脂肪などどこにもない。バランスもいい。これぞカッコいい理想の体形・・・といった男や女が現われる。それが前半に出たブタ型男女と同一人物なのだ。
この、マジックも平伏しそうな変貌を成功させたのが「ライザップ」だという。
わしはこのCMを見るたびに、そのあざとさに顔をしかめた。たしかにBefore・Afterの人物は同じ人間だ。顔の知られた著名人もいる。だが、映像を加工したに決まっている。
これはもはやサギだ。こんなものを、いくら収入源だとはいえテレビで堂々と流していいのか、と、フンガイまであと一歩だった。
ところがである。世の中のコトは表面や常識だけで判断してはいけない、ということを教えられた。
テレビ東京に、作家の村上龍と女優の小池栄子がMCを務める「カンブリア宮殿」という人気番組がある。去る2月8日にこの宮殿に招かれたのが、「ライザップ」の創業者社長・瀬戸健氏だった。
そして知った。あのテレビCMにウソ(加工)はなかったと。
世にダイエットに挑戦する人は浜の真砂ほどいても、完全に成功したひとは月夜の星ほどしかいない。
どうして「ライザップ」は、このようなマジック的なダイエットに成功するのか。
・・・ということもわかった。
この番組を見ていない人もいると思うので、今回はこれを紹介してみる。
瀬戸健氏は、中・高校時代いわゆる落ちこぼれだった。成績は後ろから数えたほうが早かったし、現在の容貌からも想像できるが、イケメンというにはムリのある顔だ。女にモテなかった。
ところが世の中はおもしろい。というかタデ食う虫も好き好きというやつだろう、彼を好きだという女子高校生が現れた。友だちのなかだちで付き合いを始めた。
そのガールフレンドは太っていた。なんどもダイエットに挑戦したが、いつも挫折した。そのことで悩んでいることを知ると、瀬戸氏は提案した。もう一度ダイエットをやってみないかと。
ただし、こんどは途中でやめない。100パーセント成功するまでやり抜く。自分も一緒にやって援助するから、もう一回だけ挑戦してみないか、と。
なぜ瀬戸氏がこんな提案をしたのかは番組はふれなかった。
もちろんガールフレンドを悩みから解放して喜ばせたい、彼女の笑顔を見たい・・・ということがまずあったのだろうが、もう一つ、デートしていて間がもてなかったからではないのか。・・・ってこれはわしの想像。わしには昔そういうことがあったから。
一方、ボーイフレンドからこんな提案をされたら、飛びつかない太りっ子女子はいないだろう。
そして結果は大成功した。
とりわけガールフレンドの減量後の変貌はいちじるしかった。これもわしの想像だが、スリムになったことに自信を得て、メークアップやヘアスタイル、服装などにも大いに力を入れたのだろう。見違えるようにきれいになり、魅力的な女に変身した。男からアタックされることも多くなった。
そしてその結果、瀬戸健は彼女にフラれた。
人生にはこういうことはよくある。ただここでフテネしたり、グレていたりしたら、今の瀬戸健はない。
彼は自室に「一度は男を見せてみろ!!」と大書した紙を張って猛勉強し、みごとに明治大学商学部に合格した。こういうところが人生の面白いところだ。
このときの経験・・・つまりぶくぶく太っていて、自分(瀬戸氏)のような落ちこぼれのノン・イケメンしかボーイフレンドにできかった女が、みごとに美人に変身して他のイケメンに乗り換えた。その結果、学年400人中399位の落ちこぼれだった自分が一念発起して猛勉し、東京六大学の一つに合格できた・・・という経験が、「ライザップ」のスローガンのひとつである「人は変われる」につながっているだろうことは容易に想像できる。
瀬戸氏は24歳で起業すると、大小の失敗と成功をくり返した。
いよいよこれまで・・・という窮地におちいっても、あくまで投げないで努力をつづけていると、その失敗を糧にするようにして、以前より大きな会社に生まれ変わった。
彼の座右の銘は “人は変われるを証明する” だという。
「これを座右の銘にしたのは、まず自分自身が落ちこぼれだったけど変われたし、社員も仕事を通して変っていくし、お客様もプログラムに挑戦して変っていく。それを目のあたりに見て、人間は変われると確信したからです」
と瀬戸氏は言う。この確信をどんな局面でも忘れずに、最後までやりきるように実行すると、不可能と思われたことも不可能でなくなるし、暗闇にもかならず光が差しこんでくる、と語る。(番組の公式サイトの動画)
番組MCの村上龍も、こんなことを話している動画が同じサイトにある。
「コンプレックスは誰にでもあると思うよ、オレにだってあるしさ。だから『人は変われる』というのはいい言葉だ思う。キャッチコピーとしても・・・。基本的には社会起業家と同じだと思う。誰かに関与して、その人が喜ぶことで、自分も嬉しくなる・・・自分だけが嬉しくなるんじゃなくて・・・。瀬戸健さんってそういう人だと思う」
わし自身も、いちばん印象に残ったのはそのことだった。
結局この世は、自分ひとりのことだけを考えていては成功しない。
そもそも出発点からして、ガールフレンドを喜ばせたいと思ってしたことが失恋につながり、その失恋が発奮材料になって落ちこぼれから脱出できた。そのけっか今がある。まるで『わらしべ長者』みたいだ。
今「ライザップ」を含む彼の会社「健康コーポレーション」は、従業員約5000人、年収約1000億円だそうだ。
それにしても、あのテレビCMの「ブーぅ、ブーぅ」という巨大豚の放屁音は、なんとかならないものですかね。あのCMのインパクトが「ライザップ」の躍進を引き出しているのだとは思うけれど、わしのような年寄りには刺激が強すぎる。
以上、2018年2月8日に放映されたの「カンブリア宮殿」に基いて書いた。