キッチン・バトル -年寄りの水あそび-(3)
〔前回までは、現役を引退したあとに襲ってきた退屈と闘うために、一大決心をしてわが家のシェフ(女房)に弟子入りしたのだが、その初日から早くも不穏な空気が漂いはじめたところまでだった。
〔前回までの記事はこちらから→(1)(2)〕
・・・かくしてわしは、女房のななめ後ろに立って、下ろしたてでゴワゴワするエプロンの前に腕を組んで彼女のやることを見ていた。
女房は冷蔵庫の扉を開けた。もちろん、調理に必要な食材を取り出すためである。
中にはいろんなものごちゃごちゃと詰めこんであって、必要な食材を取り出すのにやたら時間がかかる。その間、冷蔵庫はトーゼン開けっぱなしだ。冷気がかすかな白煙となって庫外へ流れ出ていく。
入れるときに種類や使用頻度などを考えれて入れれば、時間と労力を節約し、ムダな電気の浪費を避けられるのになあ・・・と思ったときには、まずいことにすでに口が動いていた。
「食べものの入れ方に工夫がたりんな」
言ってから、さすがにシマッタと思ったよ。
案のじょう、女房はわしをチラリと見た。
無言だったが、目の光が無言じゃなかったな。ある種の波動を伴った強い光を放って、キッチン全体を一瞬にしてひんやりとする空気に変えたのである。
しかしまあ、女房にしてみれば当然の反応だったかもしれん。
稽古初日から、入ったばかりの新弟子にやり方を批判されたのでは、師匠のメンツってものが立たん。
といってわしにしても、口から出してしまったモノは、パソコンみたいに「消去」も「削除」もできんしねえ。
こうして、タイトルに掲げた「キッチン・バトル」のリングは、ごく自然にできあがったのである。
で、このあと、このリング上でいかなるバトルがくり広げられたか。
昔の紙芝居屋のおじさんなら、ここで、
「黄金バットの運命やいかに!!」
ってなしわがれ声を張り上げるところだ、ケレン味たっぷりにね。
しかしまあ正直なとこを白状すると、わが家のキッチンでは大げさなことは何も起きなかった。ちょいとケチな内戦が勃発しただけだ。
しかし、その内戦の結果はわしにはけっこうヒビいたよ。それを次回から書く。
♪どこ、どこ、どこから来るのか、黄金バァ~~ットォ~!
・・・って歌声が、記憶の底のほうから聞こえてくるナ。
(第4回はこちらから)
はじまり、はじまり〜〜
記憶では、水飴とか味付け昆布を買って見ましたね、紙芝居。
のどかだったなあ。自転車でやってきましたよね。
キッチンバトル、一騎打ち、果たしてどうなるか???・
紙芝居のおじさんの売る水飴とか昆布をご存知とは、
お見かけによらずソートーのベテラン?
それはともかく、水飴とか昆布という言葉をきくと、
たちまち口の中にあの味がよみがえりますなァ。
あの頃はほかに食べるものがな~にもなかったからなァ。