残り香にゆすぶられて -高齢者の性- (2)

老人男性の性

 今回の記事を読むまえに、前回(→ 「高齢者の性 (1)」)の記事に目を通しておいてね。

 Aさんは関西在住の70代の男性である。
 現役時代は大手保険会社に勤めていたが、定年退職して今は福祉関係の仕事をしている。

 Aさんはだいたい2ヶ月に1度くらい、2,3日ほど東京に出張する機会がある。
 この東京出張が、ある意味で彼の生活の安定剤になっている。
 もしこの “機会” がなかったら、ひょっとするとAさんの生活は、つねに満たさなれない何かを底によどませて、やや落ち着きのないものになっていたかもしれない。それが悪い方向へ向かうと、周囲に理由もなく不機嫌な顔をみせたり、もっと悪くすれば、ちょっとしたことで家族に当たるとかいった、あまり好ましくない日常を生んでいたかもしれない。

 その東京出張の “機会” とは、高齢者専用の風俗店を利用することである。
「60歳未満のお客様お断り」という看板をかかげた派遣型の店で、高齢の利用者の自宅やホテルに女性を派遣し、さまざまな性的サービスを提供する。いわゆる本番はしないというタテマエだが、実態はおそらく当事者同士の交渉しだいだろう。5年前のオープン以来、利用者は年々増え続けているという。

 Aさんは妻との相性もよく、平穏に暮らしてきた。だが、10年ほどまえ妻が大病を患ったのをきっかけに、夫婦の営みがなくなった。
 しかし性の欲求を抑えられない。ときには仕事に集中できなくなる。おのれの年を考えると自分でも情けなくなるのだが、意志の力ではどうにもならない。

 こういう密かな悩みを長く抱えながらも、Aさんは妻にも友人にも相談できない。家族も仕事仲間も、Aさんを真面目いっぽうの人間だと思っている。実は私は・・・などはととても言い出せない。
 現実問題として子孫を残せる年齢でも状況でもないのだし、なぜこんな不要なものを老人に与えたのか・・・と神に文句のひとつも言いたくなる。いや実際に何度も恨みがましい問いかけをしたが、神はなにも答えてくれない。

 結局、自分自身で対処する以外にない。たまたまとある週刊誌で、東京には高齢者専用の風俗店があることを知った。仕事で東京に出張するときに限って利用するようになった。

 もちろん家族や仕事の仲間には、そういうことをしていることはおくびにも出さない。
 友人たちが酒の席で下ネタ話に興じることがあっても、Aさんは話に加わらない。彼らはAさんのことをいわゆる “石部金吉” だと思っている。
 いっぽうAさんは、「だんまり助平」とはまさにオレのことだな・・・とウス苦い自嘲を腹のなかに転がしながら、友人たちのエロ話を聞いている。 

      *
 
 Bさんは、妻とふたり暮らしの75歳の男性である。
 3人の子供は独立して家を出ている。母親(Bさんの妻)とは電話でちょくちょく話しているようだが、Bさんとはあまり話したがらない。生まじめな親父というイメージがあって、堅苦しいらしい。

 Bさんはそれほどパソコンを使わないが、じつは週に2,3回、密かにパソコンと向かいあう。アダルト画像や動画を見るためである。
 パソコンは、インターネットの回線につなぐ関係上(妻はときどき検索に利用する)、回線端子が付いている居間の壁ぎわ近くに置いてある。Bさんは妻のいないときを狙って蓋を開ける。

 社交的な妻は週に2、3回ほど、ボランティアや習いごとで家を空ける。
 Bさんはその日がくるのが待ち遠しい。妻の出かける日は、朝からなんとなく気分が明るい。つい口も軽くなる。そのことに気づいてからは、わざとフキゲンな顔をして見せることもあるが、どっちかだけに偏るとかえって気づかれる可能性があるぞ・・・などと気を使う。
 ともあれBさんにとって「妻は元気で留守がいい」。

 Bさん自身も、いい年をして・・・とそんな自分がときに情けなくなる。が、なかなか止められない。おそらく1日中ヒマであることにも関係があるだろう。毎日の新聞と、図書館から借りてくる歴史本を読む以外にすることがない。妻からボランティアに誘われることもあるが、人中に出るのは好きではない。

 そんなBさんに、ある日、とんでもないことが起きた。
 アダルトサイトの運営会社と思われる所から、高額の支払い請求がメールで送られてきたのだ。
「いつもご利用いただきありがとうございます。弊社サイトのご利用料金が未払いになっております」といった文面で、Bさんがそのサイトにアクセスした日時、ページビュー数、ビューごとの閲覧時間等のデータが列挙され、最後に「お支払いがない場合は、弊社契約の法律事務所より法的措置を取らせていただきます。場合によっては、お勤め先もしくはご自宅へ集金にお伺いすることもございます」
 とあって、Bさんは震え上がった。

 そういえばたしか少し前に、あちこちクリックしているうちにふいに「ご利用ありがとうございます。会員登録が完了しました」といった文面が出て、驚いたことがあった。そのうち消えたので忘れていたが・・・。

 請求された金額は法外なものだし、何よりこのことを妻に知られることを、Bさんはいちばん恐れた。妻に知られることは、たちまち息子や娘にも知られることだ。親戚連中の耳にだって入るかもしれない。彼らの自分に向けられる目を思うと、どっと汗が出た。娘にそういう父親だと思われることも辛かった。

 ショックとともに頭のなかが白くなるほど気落ちした。ふと気づくと左手がかすかに震えている。思わずそれをもう一方の手で強く押さえた。それで少しわれに返った。多少冷静になった。するとあることに気づいた。

 Bさんはこの手のサイトを訪れる際に、注意していることがある。
 アダルトにアクセスした痕跡が、パソコン内に残らないようにすることと、本名・住所・電話番号などを不用意に書きこまないことである。メールアドレスはどこかで入力したかもしれないが、それ以外の個人情報は絶対に入力していない。・・・はずだ。
 なぜなら、こうしたトラブルに巻き込まれた人の話を、いつかテレビのニュースショーで見たことがあったからだ。そのとき、こういうメールは無視するのがいちばん、と言っていたのも思い出した。あわてふためいて相手に電話をかけたりすることは、絶対にしてはいけないと・・・。

 Bさんはメールを無視した。もちろん不安がなくなったわけではない。その後しばらくは、妻が家にいるときでもさりげなくパソコンを開いて、受信がないかチェックした。その後ふたたび請求メールはこなかった。もちろん自宅に集金に来ることもなかった。やはり無視したのがよかったとホッとしている。

 Bさんはそれ以来、その手のサイトへのアクセスは控えている。でも、注意深くやれば大丈夫じゃないか・・・という気持ちがまたも芽生えているので、いつまで自分を抑えていられるかわからない。

 以上のふたつの例は、去年(2017年)NHKの番組「クローズアップ現代+」で放送されたものの一部を、わしなりに補足をして再現したものだ。(番組を録画してメモを取った。)

 Bさんは幸い被害を免れたが、実は今、アダルトサイトに関わる被害が急増しているという。
 20代以上を10年きざみの年齢別で見てみると、60代の被害の相談が最も多くおよそ1万件(9,945件)。50代がそれに続き、70代以上でも5,154件もあって、20代や30代よりも多い。(国民生活センターの2016年度調べ)。
 しかしこれらは生活センターに相談があった件数で、相談してこなかったものを加えると、タイヘンな数になるとわしは思う。
「いい年をしてアダルトサイトを見ているなんて人には言えないでしょ。だから、どうしたらいいか分からない」(67歳男性)
 という言葉に代表されるように、問題を1人で抱えこんでしまう結果、事態をより深刻にするケースが多いと見られている。くり返しの請求に応じて資産のほとんど(7300万円近く)を失った実例も、番組のなかで紹介されていた。

 アダルトサイト問題に限らず、高齢者の性は実はいろいろヤッカイな問題をふくんでいる。
 問題が問題なので、「オレオレ詐欺」のように世間ではあまり大っぴらに取り上げられないけれど、人知れず悩んでいる高齢者は多いのだ。

 次回も続けて「高齢者の性」を見てみる。

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