玉が消えた日 (1)

そけいヘルニア

 日本語には、人間に関連するあるモノを指して「玉」と呼ぶことばが、意外にたくさんある。
 そしてその「玉」には、目に見える玉と、目に見えない玉がある。

 目に見えない玉としては、さしずめ「肝っ玉」と「カンシャク玉」だろうな。
 いっぽう目に見える「玉」の代表は、まず「目の玉」だろう。
 そして副代表としては、ご婦人たちの眉がひそめられるのが目に見えるようだけど、勇をふるい起こして言えば、「金玉」。
 それにしても、豊臣秀吉がよろこびそうな「金」の一字を、なぜ「玉」の前にくっつけたのだろう。
 それはこの玉が、「家の宝」である子孫を残すのに必須の、精子をつくる器官だからではないか・・・とわしは想像する。
 少子高齢化社会のトップを走るニッポンでは、いまに「国の宝」と呼ばれるかもしれない。

 今回はその「金の玉」に関わるわしの体験話をしようと思う。と言っても想像されるような艶っぽい話ではないゾ。あらかじめ断っておく。

 小学校に上がる少し前だった。
 あるとき気がついたら、望みも頼みもしないのに、わしの例の「玉」がなぜか大きくなり始めたのである。これはユユしき問題だった。
 といってもそれほど速いスピードではない。1,2時間おきに見るくらいでは変化は分からないが、1,2週間おいて見ると、前よりどことなく大きくなっているように見える・・・とまあ、そんな程度。要するに遅々とはしているが、日々確実に大きくなったわけだ。

 かくしていつのまにか(これを書くのはこの年になってもちょっと恥ずかしいが)両脚の間に、瓢箪みたいなものがどろ~んとぶら下る・・・といった、どこから見ても晴れ晴れとしない光景を呈するに至ったのである。

 結論からいえば病気だった。病名は「そけいヘルニア」。別名「脱腸」。
「そけい」は漢字でかけば「鼠蹊」で、両脚のつけ根部分にある三角地帯をいうらしい。「ヘルニア」は「椎間板ヘルニア」などでもおなじみだが、もともとはラテン語で「脱出」を意味する言葉だそうだ。

 で、「そけいヘルニア」とは要するに、鼠蹊部にあって本来は閉じているトンネル部分(鼠蹊管)を通って、腸などの内臓器が陰嚢などありえな所へ出てくる病気をいう。どっちかというのマイナーな印象だけれど、実は毎年かなりの患者数が出るメジャーな病気らしい。

 この病気は、投薬とか放射線とかの療法は不向きで、治療には必ず手術が必要となる代表的な疾病だそうだ。医師の間に、「痔と脱腸があるかぎり外科医は食いっぱぐれがない」という冗談があるくらいという。

 病気の進みぐあいが緩慢なこと、初期はほとんど痛みを伴わないこと、入院の煩わしさや手術の怖れがあることなどから、治療をしないで放置したままにする人が多いらしい。まさにわしがその典型。

 もちろん、これらの知識は大人になってから仕入れたもので、当時のわしは何も知らなかった。
 しかし子供ながらも(・・・いや子供だからこそ本能的に)手術にともなう痛みを察知したのだろう、親が病院へ連れていこうとしても、頑固にイヤだと言いはったらしい。むりやり連れて行こうとすると、道端の電柱にしがみついて泣きわめき、抵抗したらしい。結果、前述したような「どろ~ん」状態に立ち至ったわけである。(昨今の「ドローン」は空を飛ぶようだね)

 ええーと、ここまでで既にブログのスペースをかなり費やした。ちょいと疲れてもきたので、このつづき(手術までのドタバタと、手術日当日の驚愕のハプニングについて)は、次回に回すことにする。

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