老いぼれボッカ(上)

ボッカ

 何度も書いているが、女房の母親は今年の誕生日に100歳になる。
 わしたちが住んでいるところから電車・バスを乗り継いで、2時間ほどのところに独りで住んでいる。

 女房は毎日かならず電話をし、10日ないし1週間に1回ほどは家を訪ねる。
 訪ねるときにはなにか物をもっていく。主として食材が多いが、ときには頼まれた化粧水や乾電池、蛍光灯とかも買っていく。(女の人は100歳になっても化粧水を使うんだねぇ。エライなぁ!)

 で、たまに荷物の重さがあるレベルを超えると、わしに声がかかる。まあ早く言えば、シェルパとかボッカ(荷物運び人)役ですな。

 ボッカ・・・なんて大見得をきったけど、わしはいい年をした老人だ。老いぼれて足腰が頼りないボッカなんて、足まわりにガタのきたリヤカーみたいなもの。荷を背にしたら腰がふらつき、足元がおぼつかなくなるようじゃ、周辺から憐れみの目で見られるだけである。面白くない。

 しかし、わし以外にその役目を果たす者は誰もいない。となれば多少責任を感じるというか、プロ意識に目覚めるというか、いつ頼まれてもいいようにふだんから体を鍛えておこうと考えた。

 まず足腰だが、これはまあ糖尿病サンのおかげで毎日ジョギングをしているので、年齢を考えればまあまあのほうだと思う。
 問題は腕である。
 電車のなかで、特に混んできたときに、背中に大きなリュックを背負っていると、他の乗客の迷惑になる。網棚にあげる必要を迫られる。そんなときヘナチョコの腕では用を足せない。都市ボッカとしては失格だ。

 そもそもわしはふだん、腕で何かを重いモノを持ち上げることがない。生活のなかに必要がないからだ。カミさんを抱き上げてベッドへはこぶ・・・なんてことは今も昔もやったことないしねぇ。箸に食べ物をはさんで口へ持っていったり、パソコンのキーを叩くのは毎日やるが、それじゃ腕の筋肉は鍛えない。

 そこで一念発起してジムに通った。・・・なんてアホなことはわしはやらない。工夫すれば金をかけずにできることを、わざわざ金を払ってするようなムダはやらない。
 では何をしたか。
 自宅の事務用椅子を持ち上げたのだ。早い話、いまこの記事を書きながら座っている椅子。
 毎日風呂に入る前に、この椅子をバーベル代わりにリフティングする。
 リフティングなどとちょっとカッコつけてみたが、要するにやってることは事務椅子を頭の上へ持ち上げるだけだ。金はかからん。
 
 あんた、いま笑ったナ? しかしバカにしてはいけない。この椅子は金属が使われている部分もあってけっこう重い。量ってみたことはないが、おそらく10~15キロくらいはあると思う。
 何十年も箸と茶碗しか持ったことのない腕には、けっこうな重さだ。

 正直にいえば、何年か前に最初に持ち上げたときは、思わず足がふらついた。腕の脆弱さが下半身に影響をおよぼすとは知らなかった。ジョギングで鍛えた足腰の筋肉とは、またべつの部分を使うのだろうか。
 ともあれ改めてわが腕のひ弱さを知った。それでわしはかえって意地になった。毎日の訓練(…って椅子を持ち上げるだけだけど)を欠かさずに励んだ。
 
 人間の体はエライもんデス。年をとっていても訓練(必要な刺激)をあたえてやれば、ちゃんと応える。足元のふらつきなんて1ヵ月で完全になくなったし、腐りかけの豆腐みたいだった二の腕の筋肉は、スーパーで買ってきたハンペンくらいになった。
 
 その結果、そのころはボッカの声がかかっても、問題は生じなかった。電車のなかで荷物を網棚にあげるのに、苦労することはなかったから。女房には自慢っぽいことは言わなかったものの(言いたかったけど)、内心はまあ得意だった。年をとっても備えあればウレイなしだねぇ・・・などと。

 ところがである。2,3年ほどして思いもしなかった事態が起きたのである。
 わしは面食らって慌てふためいた。
 
 ・・・が、本記事はもうすでに長くなっているので、続きは次回にまわしマス。

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