あのとき女性は演技する?
「あの男は油断ならない。顔は笑っているが、目は笑っていない」
・・・という言葉をときに耳にする。書かれたものの中にも散見する。
確かにそういう人はいる。
わしにもすぐに頭の隅に浮かぶ顔が、ひとつふたつある。
この “顔笑い目笑わず” 人間に出会うと、ふつうはあまり愉快な気分にはならない。
ま、そりゃそうだワな。相手が表に出していることと、腹の中で思っていることは別のものだと知って、思わず拍手したくなる人はそういない。
それで思い出すことがある。
”アノときのアノ話” を初めて耳にしたときに受けたショックだ。
この話題で最初に思い出すのがコレだとは、人間が上等でないわしらしい。
ベッドの上で男と女がアノ行為を行う際、女性は往々に演技をする、という話を聞かされたとき、わしは立っている足元の板を外されたように驚いた。
つまりそのさい女性はほんとうは気持ちよくないのに、往々気持ちよさそうなフリをして見せる、というのだ。
そのときわしは学生で、男女の行為の経験はあったがまだ日が浅かった。手探り状態のころだった。それだけに経験豊富と噂の先輩からそう教えられたときには、正直ショックだった。そのとき付き合っていた女性の顔を思い浮かべて、彼女もそうなのか・・・とガクゼンとした。
若いということは厄介だ。
肉体は非の打ち所がないが精神の底が浅い。たくわえているモノの量が少ないから、物事に対する対応が幼稚になる。よけいなトラブルを引き起こす。
わしもそのとき、恥ずかしながら一時期 “プチ人間不信” に陥った。
あんなに清純そうで虫も殺さぬ顔をしていながら、あの大事なときに彼女は事実をイツワッテいるのか。つまりダマしているのか。人間というのはそういう信頼できない存在なのか、何を信じればいいのか・・・などと。
そんなふうに一目散に突っ走って、勝手に息が上がってしまい、しばらくよろよろした。わしも当時は “清純” だったのだ。
もちろん今なら、そんな一直線な話でないことはわかる。
その際に女性が演技をする(場合もある)のには、さまざまな理由が絡んでいるだろうことは容易に想像がつく。人間不信へ突っ走るのはいかにも青臭い。
その際女性が演技をする裏には、相手の男を失望させまいとする思いやりがある。と同時に、自分を守ろうとするエゴも働いている。人間関係によけいな砂を投げこんでジャリジャリいわせたくない、と思う計算もあるだろう。さらには、人はおかしいから笑うのではない、笑うからおかしいのだ、というのと同様の生理に期待するケースもあるかもしれない。その他、それぞれに個人的な要素も混じるだろう。
それらはすべて、ある意味で生きる上での人間の知恵だ。
冒頭に書いた「顔は笑っているが、目は笑っていない」人間にしても、相手の主張に安易に振り回されることなく、冷静・客観的に自分の判断をしようとする賢明な対応をしながら、同時に相手に不快を与えないよう気を使っている。自分に悪印象を持たせまいとする保身が多少混じっているにしても、むしろほめられていい心遣いと言っていいかもしれない。
もっとも、どっかの首相のように、自己保身のために嘘をつきまくって、その欺瞞だらけの腹の中を見せないよう、誠実に謙虚に説明責任を果たすフリをする人間もいるから、注意が必要だ。
くり返しになるが、腹に持っているモノと表に見せているモノにギャップがある人間は、一般的には良く言われない。「腹が黒い」「二心ある」「裏がある」等々といった評言は、決して褒めことばではない。
だが、その裏を考えると、一概に否定できない部分もあるのではないか。
生きものの世界は、本質的に生存競争である。
食うか食われるかの生き残りゲームだ。
人間も自然界の一員であるからには、基本的にはその本質から免れない。
ただ人間は発達した前頭葉を持っているから、周辺にさまざまな飾り物を工夫して配置し、あからさまにならないようにしているだけだ。
少し目を離してみると見えやすくなる。
たとえば国と国の外交。
国と国の外交を、幼児のごとく二心も二枚舌もなく、裸心をさらけだして駆け引きなしに行う国は、いかなる小国といえどもないだろう。
いや小国や弱国であればあるほど、知恵をしぼって権謀術数を凝らす。戦う武器を持たない小動物ほど、擬態をこらすように。
生き抜くために必要だからだ。
個人と個人、男と女の付き合いでも、基本的には同じ。
たとえば夫婦の間でもそれは必要だ。その方がうまくいく。
他者との駆け引きは、生きる上での人間の知恵なのだから。
”駆け引き” というと耳に当たるが、賢明に使えば “コミュニケーションの潤滑油” となる。
生きものが生き抜くのは大変だと改めて思わされる。
ただ、地球上のすべての生きもの・・・動物も植物も微生物も・・・みんなそうやって生きているのだと思うと、なにかしらホッとする。
”赤信号みんなで渡れば怖くない” ってやつ?
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。