うす汚れた初雪(2)

 県主催のインター・スクール俳句コンクールで、ムリヤリ俳句を作らされて、ヤケッパチで単に文字を17個並べただけの句を何個かつくり、1秒後にはすっかり忘れたまでのイキサツを、前回に書いた。(前回はこちら
 
 その後、忘れたまま半年あまりが過ぎた頃だった。
 思いもかけないコトが起きた。

 5年生になって、一学期が過ぎ、夏休みも終わって、二学期が始まってまもない頃だった。
 講堂で行われた全校朝礼で、壇上に上がった校長がいつになくニコニコ顔で話しだした。
「きょうはわが校にとってうれしい報告があります。まずそれから話しましょう」
 校長はそこでいったん言葉を切り、もったいぶった様子で講堂内を見まわしてから
「五年生の○○君、いますか? いたら手を挙げてください」

 とつぜん自分の名前を呼ばれて、わしはドキンとした。反射的に、夏休み中にやった何かの悪さがバレたのかと思ったのだ。
 
 しかし、それにしては校長のごきげんは悪くなさそうだが・・・と頭の中は混乱したまま、おずおずと手を挙げた。

「あ、そこにいますね。・・・じつはいま手を挙げた○○君の作った俳句が、県主催の俳句コンクールで最優秀賞に選ばれました。いいですか、皆さん、最優秀賞ですよ・・・俳句で▽▽県の小学生の頂点に立ったのです」

 校長の興奮ぎみの声が、頭の上を通りすぎていった。
 わしはようやく思い出した。そういえばいつか寒い教室に居残されて、震えながら五七五の言葉並べをやったことを。

 しかしどんな五七五を並べたのかも、まるで憶えがなかった。
 第一、苦しまぎれに押し出したフンのような俳句が、県の最優秀賞に選ばれるはずがない。それは子供の頭にだってわかった。
 
 何かの間違いだ、とわしは思った。
 そんなわしの狼狽などに知るよしもなく、校長はさらに声を高めて続けた。

「これは本校にとってたいへんな名誉です。なぜなら、わが校の先生たちがいかに教育に熱心であるか、またその指導力がいかに優れているかということを、広く世間に証明するものでもあるからです。校長としてこれほどうれしく、誇らしく思うことはありません」

 わしは内心、こりゃマズイことになった、と思わずにいられなかった。
 どこかで何かの間違いが生じて、作者の名前が入れ替わったのにちがいないからだ。後になってそのことがわかったときどうするか。
 ・・・それを考えると、その場から逃げ出したくなった。

「それでは、最優秀賞に選ばれた○○君の俳句を、皆さんにも紹介しましょう。コンクールが始まったのは、昨年の十二月はじめでした。まさにその頃にふさわしい作品です」

 校長は内ポケットから二つ折りにした紙片を取り出し、禿げた頭の上にメガネを押し上げてから、もったいぶった声で読みあげた。
 
  初雪をからだにあびて立っている

 あれ、とわしは思った。なんか覚えがあるぞ、と。
 校長は変な節をつけながら、二度ゆっくりと読みあげた。それから紙片をポケットへ、メガネを鼻の上にもどし、感動のおももちを残した顔で続けた。

「春、夏、秋と、雪のない季節が長くつづいて、また冬がめぐってきました。日一日と寒さがまし、ある日ふいに灰色の空から白いものが舞い落ちてきた。その年初めての雪が降る時というのは、子供にとっては何となく心がはずみ、うれしいものですね。校長先生にも憶えがあります。外に飛び出して、意味もなくそこらじゅうを走りまわったり、降ってくる雪を棒切れで叩いたり、舌を出して受けとめたりしました。しかし○○君の俳句はもっと情感豊かです。濡れるのもかまわず、降りしきる雪のなかに静かに立って、両手をひろげ、顔をあお向け、軽く目をとじて、新しい季節の到来を全身で味わっています。・・・この句からはそんな情景が目に浮かびます。子供らしい心の動きを詠みこみながら、移りゆく日本の微妙な季節感を、わずか十七文字の中に表現したすばらしい句です」

 ここへきて、わしはようやく思い出した。確かにこれは自分が作った句であることを・・・。

 しかし、名前の取り違えによるごたごたの心配はなくなったものの、一難去ってまた一難、新たな問題というか、居心地の悪い気まずさが体のなかに急速にふくらんできたのである。
 
 そしてそれには理由があった。
 
        (長くなったので続きは次回。次回はこちらから)

 

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