筋肉の反乱

 前から必要を感じていたちょっと大きめの本棚をつくった。
 簡単な設計図を描き、ホームセンターで板材を買って、必要な長さにカットサービスで切ってもらい、家で組み立てた。
 
 単純な構造なので難しい作業ではない。ただ、床に並べた板にエンピツで目印を入れたり、ドリルで穴を開けたり、ネジ釘をねじ込んだりするのに、中腰になる時間がけっこうあった。
 
 中腰なんて姿勢は、マウンティング同様、老人はふだんはやらない体位だ。で、翌日、かなりの肉痛がやってきた。

 わしは大食いをしたら、数時間後に胃ヤケがやってくるが、肉痛も胃ヤケと同じ肉体の生理現象だ。
 老人はとりわけ下半身にこの現象が出やすい。
 
 20代の終わり頃だった。
 5,6年振りにスキーに行って、第1目に、めいっぱいスキーを楽しんだら、翌日、宿のトイレで用を足したあと立ち上がれなくなった。その時のことを思い出す。

 当時のスキー宿の便器はどこも和式だった。しゃがんで目的は達したものの、いざ立ち上がろうとしたら、どうしても立ち上がれない。下半身の全細胞がグシャグシャに壊れたみたいに、痛い。だけでなく力が入らない。必死にガンバッテも、どうしても立ち上がれない。

 ・・・といって、仏龕(ぶつがん)の中の仏像みたいにつまでも座り込んでいるわけにはいかない。いつなんどき新客が扉をノックして、明け渡しを求めるかわからないのだ。

 なんとかしなければと焦って狭いトイレ内を見渡すと、頭の上に取り付けられた貯水タンクから、便器に水を流す鉄パイプが目の前に下りていた。
 
 これだ、と直感した。
 このパイプに取りすがって、下半身が燃え上がったような痛みに必死に耐えながら、なんとか立ち上がったのだった。
 その時、ふだん使わない筋肉を急に使うとどうなるか思い知った。

 30歳近くの若さでさえこれだから、未使用筋肉の急激使用が80歳を越えたわしにどれだけコタエたか、気が向いたら想像してみてほしい。
 
 その日(本棚を作った翌日ネ)は、室内を移動するにも壁や食器棚やサイドボードに助けてもらわなければ、動けなかった。一日中それが続いた。
 
 ところが翌日になると、今度は両腕が痛い。それもかなり。
 前日、機能喪失した下半身を支えるのに使ったからだ。
 
 やれやれ、と空をあおぐ気分だった。
 確実に筋肉は老化している。(何をイマサラ!)
 小さなことでも、何かふだんやらないことをやると、翌日、そのとき使った筋肉がかならず文句を言う。
 そして、その痛がる筋肉をかばおうとして、無意識にふだん使わない別の筋肉を使い、そこがまた泣き言をいう。
 こうして伝言ゲームみたいに痛みが伝わっていく。
 なんと情けない体であることか。

 しかし、そもそも老いるとはそういうことだ。
 情けながっても何の得にもならない。それでわずかでも筋肉が若返るのなら別だが、ストレス袋の中に新たなストレスを放り込むだけだ。

 それくらいなら目下の現実をあるがままに受け入れて、心穏やかにしているほうがいい。おお、そうかい、今日はソコが痛むかい・・・という感じで。
 
 年とってようやくそういう境地になった。
 年とらならなきゃそうなれなかったというのが情けないけどね。
 
 ・・・ってすぐそうやって情けながる。
 それがダメなんだって。

 

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