人間の限界を超える

千日回峰行

 世の中にはにわかに信じがたいほど凄い人がいる。
 いわば信念と意志の力で龍(りゅう)となり、天翔ける。
 ほとんどそれに等しいようなことを、現実にやった人。
 
 土曜の朝に、「サワコの朝」という番組をTBSテレビが放送している。
『聞く力』というベストセラー本もある阿川佐和子さんが、毎回各界の著名人をゲストに迎えて話を聞く。
 わしは毎週できるだけ見逃さないようにしている。テレビを通してではあるけれど、ふつうではまず会えないような人の話が聞けるからだ。
 
 前年最後の土曜(2020.12.20)のゲストは、大阿闍梨の塩沼亮潤さんだった。

「阿闍梨(アジャリ)」という言葉は耳にしたことはあった。が、詳しいことはよく知らなかった。人間の限界をこえた体力と精神力によって、まさに人間が龍になるような難行をやりとげた人に、この称号が与えられるらしい。

 この行「大峯千日回峰行」を成し遂げたのは、1300年の歴史の中でこの人が2人目だという。
 それを聞いただけで何となくその難しさを想像できるような気がするが、軽率だった。実体は常人の想像をもっと超えていた。
 
 番組を見逃したひとのために、その驚くべき姿を紹介する。
 
 夜11時25分に寝床を出て、すぐに滝に打たれて身を清める。
 参籠所で死出装束に身を整え、深夜0時30分頃に金峰山寺を出発する。
 真っ暗な夜の山道(激しいアップダウンや岩場もある険しい山道)を、提灯の明かりを頼りに歩く。ときに小走りになることもある。
 大峯山山頂(山上ヶ岳頂上)まで片道24km、往復48km。標高差1,355m。

 行に入って3ヵ月くらい経つと、尿が真っ茶色、焦げ茶色になる。そんな血尿が出るくらい体に負担がかかる。
 
 そのころ、自室に戻ってからよく泣いた。
 辛い苦しいからではない。自分の体に謝って泣いたのだという。こんなひどい目に会わせてごめんね・・・と。
 あと一歩で死にそうになったときも、思うことは体への感謝しかなかった。よく頑張って、これまで耐えてくれた・・・と。
 
 こういう荒行を千日やるのである。
 1年に120日。9年かけて千日間続ける。
 
 いったん始めたら、どんなことがあってもやめられない。
 怪我に遭ったり病気になったりしても、絶対やめることはできない。もうダメだとなったら命を絶たなければならない。そのために常に短刀を腰に携えている。
 
 この「大峯千日回峰行」を9年かけて満行した翌年、こんどは「四無行」というさらに大変な行に挑んだ。
 
「四無行」とは、飲まず、食わず、寝ず、横にならず9日間耐え抜くという「大苦行」である。

 これはぎりぎりまで「死」に近づく「行」と言っていい。
 そのため行に入る前に「生き葬式」を行う。
 死出装束に身をつつみ、本山の管長、一山の住職、喪服の家族などの前で死出の挨拶をする「浄斎の儀」。
 
 修行場となるお堂の扉がいったん閉められたら、9日間外に出ることはできない。
 この間、座ってずっと真言を唱える。不動明王の真言を10万回、蔵王権現の真言を10万回、合わせて20万遍唱える。
 大きな声を出すとすぐに声がつぶれてしまうので、小さな声で唱え、両手を動かしたりして眠らないようにする
 
 3日が過ぎると足は紫色になる。
 サポートのために交代でお堂に入る2名の修行僧は、「死臭がする」と話していたそうだ。
 
 5日目から一日一回の「うがい」が許される。
 だが一滴たりとも喉から中へ入れてはならない。同型の天目茶碗を隣に置いて、うがい後、そこに同じ量の水を吐いて戻さなければいけない。少しでも飲んでしまって水が減ったら、行は失敗となる。
 
 最初に「うがい」をしたとき、口のなかの粘膜からチュルチュルという音がしたように感じた。

 そのころになると、全身の感覚が異常に研ぎ澄まされてくる。
 線香の灰が落ちる音が聞こえる。衝立の向こうにいる修行僧の匂いがする。
 彼らが何か言おうとすると、口を開く前に何を言うかわかる。
 追い込まれると人間はそういうことができる。
 ・・・ということは人間は、どこかにそうした力を持っているのではないかと思う、という。

 行をやる期間が9日というのは、区切りの悪い数であるが、それは、この行は10日やると死ぬと言われているからだ。
 だから、ギリギリの9日間おこなう。その極限状態のなかで、人間は気づくことや悟ることがある。
 
「大峯千日回峰行」を満行して「阿闍梨」となった上に、この「四無行」を達成すると「大阿闍梨」という称号が与えられる。
 
 塩沼さんは実に物静かな人だ。
 これだけの偉業を成しとげながら、少しも威張ったところがない。自慢げなところがまるでない。経験した事実を静かに淡々と語る・・・という感じ。
 
 そんな大阿闍梨に、サワコさんが最後に訊いた。
「そういう体験をして50歳を超えられた今、塩沼さんは日々生きていく上で心がけていることはありますか? それは何ですか?」と。

 どんな答えが返ってきたかは、今回すでに長くなったので次回で紹介する。

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