メカ音痴 スマホ山へ登る(下)

登山

 機械オンチのカミさんとスマホの、アホみたいな格闘記を綴っているが、その最終回。いい加減で切り上げたい。(前回まではこちら→
 
 こんなに苦労してカミさんにスマホを覚えてもらおうとしているのは、先にも述べたが彼女の認知障害が進行して、外出中に自分の居場所が分からなくなった時に備えるためである。

 そこで最初に始めたのは、何はともあれ電話のアプリが使えるようにすることだった。つまり「スマホで電話を掛けたり受けたり」ができるようにすること。
 
 で、まず、掛かってきたときの応対法の訓練として、わしのスマホからカミさんのスマホに電話をかけて、対応の仕方を実地に訓練することにした。しかしここでも、ふつうではちょっと考えにくいトラブルが起きた。

 電話が掛かってきたスマホの画面には、その通話を受けるか拒否するかを選択するアイコンが表示される。そして受けるなら緑色のアイコンを、拒否するなら赤色のアイコンをタップするのが普通だ。

 ところが彼女は、掛かってきた電話を受けるつもりでも、どっちのアイコンをタップすべきか指が混乱する(…らしい)。緑のアイコンの中には「応答」、赤のアイコンの中には「拒否」という文字が書かれているにもかかわらずだ。そしてたいていは、なぜか反対の「赤」のアイコンの方を叩いてしまう。
 
 実際に友だちから掛かってきた電話でも、最初のうちはそうして通話を切ってしまって、こちらから掛け直したことが何度かあった。
 
 また、通話が終わった電話を、自分のほうから切る操作も簡単にできない。このときは選ぶ相手はふつう赤いアイコン一つなのに、適切にタップして回線を切ることがなかなかできない。これもわしには未だに原因もしくは理由不明。

 そもそも彼女は若い頃から・・・つまり認知症の芽も出ない頃から、苦手な場面に遭遇すると小さなコトでも過剰に反応して、軽いパニック状況に陥る傾向があった。

 別の所ではかなり強気な性格でもあるのだけれど、根のほうが怖がりなのだ。早くいえば小心。肝っ玉が小さい。

 子供のころの父親の育て方に問題があった・・・と当人は言うのだが、それがめぐりめぐって傘寿のばあさんのスマホの操作にまで影響が与えるのだから、人間というのはややこしく、かつめんどくさい。
 
 MCI(軽度認知障害)による特別技の記憶障害のうえに、こうした固有の事情も絡んで、カミさんのスマホ登山はまさに喘ぎアエギだった。
 
 しかし、外出中の “自己位置喪失” は他人に多大な迷惑をかけるし、かといって外出を規制すると、運動不足や刺激不足になって認知障害に栄養と与えるので、ほとんど息が切れそうになりががらもガンバッテ続けた。
 
 するとエライものだ。
 認知症の庭に足を踏み入れている傘寿老人でも、失敗しても失敗しても投げずに同じことをくり返しているうちに、進歩するのである。まさに藻に足をからめた老人足のカメのような速度ではあっても・・・である。
 
 やがて、スマホによる電話のやり取りができるようになったばかりではない。驚いたことに、電話以外のアプリにまで手を伸ばすようになったのである。
 
 で、いまや彼女は、電話のほかにも3つか4つのアプリを扱うことができる。
 最初に操作法を覚えたのがカメラ。
 元々理屈より視覚志向の人間だし、近年のスマホ搭載のカメラは機能が優秀で、誰が撮ってもきれいに撮れるものだから、カミさんは自分の腕のように思うらしく、花や木や雲や空を撮りまくってわが腕のようによろこんでいる。

 あとよく使うのはやはり検索アプリ。とくに画像で検索ができるのがとりわけ嬉しいようで、散歩中に目に触れる花や木にレンズを向けて検索し、名前を教えてもらう。よく目にするが名前を知らなかった花や、若いときには知っていたのに忘れてしまった木の名前を手に入れて、すこぶるご満悦だ。
 
 あと使えるのは「LINE」アプリ(通話だけだけど)、天気予報アプリ、タイマーアプリ、計算機アプリ・・・など。
 
 それだけでも、正直いってわしには予想外で、驚いている。
 人生が少し明るくなった気になっている。

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メカ音痴 スマホ山へ登る(下)” に対して1件のコメントがあります。

  1. kanae より:

    私だっていつどうなるか分からないので、常に覚悟しているつもりだけど、本当にその時になったら、どんな態度をするか分かりません。年を取るのは寂しいことだなあと思います。夫は元気ですがやはり長年一緒にいても心も一緒になることはできませんね。

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