寝てるときくらい口を閉めてろ
おととい(9月27日)、口の中で入れ歯がタップダンスをする話をしたので、口に関係する話をもう一つ。(おとといの話はこちらから)
七十歳を過ぎたあたりから、夜中に目が覚めると、口の中がカラカラに乾くようになった。
それも半端な乾きようではない。口内の粘膜が干上がってパリパリになる感じ。やや誇張していえば、天日で干したスルメ。口を動かそうとしても、皮がつっぱってうまく動かせないほど。
洗面所へ行って口に水をふくみ、ぶくぶくやるのだが、硬直した口内粘膜は簡単には元にもどらない。ふだん口の中を潤しているのは唾液だが、その唾液の代わりをさせるには、水道水では力不足らしい。
ともあれ、口の中が乾燥するのは決して気持ちのいいものではないが、気持ちよくないだけでは済まされない問題があるらしい。
殺菌作用をもつ唾液が睡眠中に口内で干上がると、口の中のさまざまな雑菌が元気になるという。
特に歯周病菌が大活躍するらしい。最近の研究によると、この菌は歯周病だけでなく、他のいろいろな病気の原因にもなるというから、放っておけない。
そうでなくても経年劣化で抵抗力が弱っているわしには、無視できない問題だ。
そこでわしも対策を講じることにした。
口内が乾燥するのは、睡眠中に口を開けて寝る、つまり口呼吸をするからだ。口を閉じて鼻呼吸をしていれば、問題はない。
早い話、睡眠中に口が開かないようにしてやればいいというわけだ。
ネットで調べてみた。
今の世の中はパソコンのなかに何でもある。「口呼吸防止用グッズ」もいろいろと販売されていた。
多いのは「テープ」方式と「サポーター」方式。
「鼻呼吸テープ」というのは、バンソウコーみたいなテープを、唇の上に縦に貼って口が開かないようにする。唇のうえに人差し指を立てて「シーッ!」と言ってるみたいで分かりやすい。もっとも口にカンヌキをかけたようでもあり、おしゃべり女の口封じグッズとしても使えそう。
だがこれは消耗品。一回ごとの使い捨てだ。毎晩使うとなれば、出ていくカネのことが心配でおちおち寝てられないだろう。
そこで自分で代用品を作ることにした。
クラフトテープやガムテープを適度の大きさに切って、口の上に貼りつけたのだ。
何度か試してみた結果、これはちゃんと機能することがわかった。
ただし、専用に作られたテープとは違い、間に合わせの代用品では、あるていどの大きさが必要になる。その結果、犯罪映画に出てくる人質みたいになるのが難といえば難。
が、まあ、それを見るのは古女房だけだからいいとしよう。人質に見えようが質草に見えようが、出てくる朝めしの質に影響が出るわけではない。
しかしこの方法にはより大きな問題があった。朝それを剥がすとき、簡単に剥がれないことだ。
実はわしの口の上と下には、手入れをなまけた家庭菜園のような髭が生えている。そのヒゲにテープのノリがくっついて剥がすとき痛いの痛くないの。
力を入れてムリヤリ剥がそうとすると、毛根を埋めこんだ皮ふまで引き連れて来かねない。鼻の下が因幡の白兎になるのは避けたい。
かといって、一日中 「人質スタイル」 で過すわけにもいかない。だいいちそれじゃ食事ができない。水も飲めない。あの爺さん、鼻呼吸してて死んだんだって、なんて言われたくない。
ネットに出ている別の方法を試みることにした。
「顎サポーター」方式である。別名「チン・サポーター」ともいう。といって日本古来の伝統的男性下着とお間違えのないように。「顎」は英語で「chin」という。
じつはわし、寝るときはアイマスクをして寝る。それでアイディアが浮かんだ。
アイマスクをもう一つ用意して、顎にも当ててやればいいのではないか、と思ったのだ。
さっそくやってみた。アイマスクの目に当てる部分を顎に当て、ヒモは長さを調節して頭の真上へもっていく。早い話、アイマスクを介して下顎を頭頂にくくりつけるわけだ。
単純素朴かつ明快な方法だが、やってみるとこれがけっこう機能する。目が覚めたとき口が乾いていない。何よりいいのは、テープ貼りに比べて作業が楽で簡単なこと。シンプル・イズ・ベストだ、とこの方法を採用することにした。
それに、アイマスクはダイソーで買えば一枚108円である。毎晩使ってそれで半年以上持つ。チープ・イズ・ベスト。ビンボー人にはこれも重要。
問題は寝てる間にときどきヒモがずれて頭から外れることだが、経験を重ねるうちに外れる回数が減った。ポイントはヒモの位置。ヒモを頭頂のつむじ辺りにかけて、小用に起きたときに、紐の位置をこまめに微修正をするのがコツ。
ただ、あと一つ残る問題がある。頭頂の、ヒモのかかる部分の皮ふがヘコむことだ。要するに朝起きたあと、ヒモの跡が頭に残る。中身どうよういまや頭皮も弾力を失っているので、一日じゅう跡が消えない。
ふつうなら髪の毛が隠してくれるのだろうが、それをわしの頭髪に求めるのはちょっとコク。結果、紐跡のヘコみがモロに見える。ときどきそれに気づいた人が奇異に思うらしい。遠慮のない人はクスクス笑う。
人間って、自分のことはタナに上げといて、他人のことだと小さなどうでもいいことにまで目ざといからね。
だが、私はそんなことでヘコんだりはしません。頭はヘコんでも心はヘコまず、なんて。
とにかく頭頂のデコボコなどどうでもいい。枝葉末節は気にしないで生きるべしと思っている。この年まで生きてれば、アホでもそのくらいの諦観は身につく。
子どものころ、集中して考え事をしていたり、逆に何も考えずにボーッとしているときなどに、私は口が半開きになるクセがあった。
で、母親からとよく言われた。
「アホみに見えるからちゃんと閉めなさい」
いまそれをやったら女房に、
「ボケて見えるから・・・・」
と言われるにちがいない。
「『見える』 というのは空世辞? それとも皮肉?」
ともし訊いたたら、両方…と返事が返ってくるだろう。
口をテープで…
鼻詰まったら死んでしまいそうですね…
こわっ