エントロピーとはわしのことだった!

エントロピー

 わしの趣味の一つは散歩だ。
 天気の良い日に軽装で戸外に出て、足の向くまま気の向くまま歩きまわる。
 陽の光をからだに浴びながら、小鳥の声に耳を傾け、道ばたに咲く草花にふと足を止める・・・といった定番の楽しみも、もちろん悪くない。

 しかし、散歩の愉しみはそれだけではない。
「あ、こんな所に怪しげな横道があるぞ!」
 といった発見があると、さっそくその横道に入ってみる。
 最初は足場が悪くて歩きにくいところでも、かまわず先へ進むと、そのうち見たことのない新鮮な光景に出会うこともある。

 それはネット上の散歩でも同じだ。
 気の向くまま、マウス上の指の動くまま歩きまわっていると、思いがけないサイトに出会い、思いもよらない情報に触れられることがある。

 そのようにして先日、わしは “エントロピー” に出会った。

 何年くらい前からだろうか、新聞や雑誌等でときどき「エントロピー」という言葉にぶつかるようになった。そしてレンガの壁におデコをぶつけた。血は出ないが何となくヤな気分が出た。
 しかも「これぞ現代の最先端知識だぞ」と言わんばかりに、用語解説欄を設けて説明がしてあっても、その説明自体がレンガのかけらを投げつけられるようなもので、よけい頭がキズついた。

 例えばそいつ(エントロピー)は、日常でこんなふうに使われている。

・この部屋は散らかっているのでエントロピーが高い。
・コーヒーにミルクを入れてかき混ぜたらエントロピーが高くなった。
・経済系は生態系から資源・エネルギーを採取し、生態系へエントロピーを排出する。
・環境問題において重要なのは、エントロピーを増加させない事だ。
・廃棄物の処分が出来なくなった時点、すなわちエントロピーが最大となったところで、経済成長は止まらざるを得なくなる。
・情報の価値を失うという事は、情報エントロピーを受け取るという事である。

 どう? これ読んでスッと分かる人います?

 ところがである。
 先日たまたまWeb散歩中に出会ったサイト『エントロピーとはゴミの事だった/小学生でも分かるエントロピーの話』を一読して、エントロピーとは何か、完全ではないがおよその姿が見えた(ような気がした)。少なくとも長年ノドの奥の、食道の入口辺りに引っかかっていた小骨が取れた。

 そこで今回は、そのサイトの紹介をしてみたい。
 歯周病でグラグラしとるわしの歯で噛み砕くことで、「幼稚園児でも分かる」ように紹介しできれば・・・と淡い期待をもって始めよう。
 もっとも、幼児のしゃべることばは舌足らずでよく分からんことがあるように、かえってチンプンになる可能性もある。それに老ボケのスパイスをまぶすと、チンプンカンプンになるかも・・・。
 その時は改めて原典(→http://macasakr.sakura.ne.jp/entropy.html )に当たってみてちょーだい。

 さて、このサイトには筆者名が載せてないので仮にA氏としよう。
 A氏は書いている。
「エントロピーをグーグルで検索すると、以下の説明文が真っ先に表示されますが、これを読んで分かる方は殆どいないでしょう」と。
 で、グーグルの説明文はこれ↓
「(エントロピーとは)『原子的排列および運動状態の混沌性・不規則性の程度を表す量。熱力学や情報理論などで使う』」

 もちろん、分かるわきゃないわな、こんなこと言われたって。
 そこはA氏も百も承知で、次の手を用意する。
 日常の新聞・雑誌等で、この「エントロピー」という用語がどのように使われているかを、具体例を挙げて示しているのだ。

 実は、わしが先に挙げた6個の例文がそれである。
 ここでもう一度読み直してみてちょーだい。
 どうです? やっぱり分からんでしょう
 こんなもん、何度読んでも分かるわきゃないよね。

 ところが、宇宙語的意味不明のこの言葉を、A氏はたちどころに理解できるよう魔法を使う。

 「エントロピー」を「ゴミ」と言い替えるのである。

 これがA氏の発見した魔法の杖だ。
 先に挙げた例文の「エントロピー」を、実際に「ゴミ」と言い替えて書くとこうなる。

 ・この部屋は散らかっているのでゴミが多い。
 ・コーヒーにミルクを入れてかき混ぜたらゴミの様になった。
 ・経済系は生態系から資源・エネルギーを採取し、生態系へゴミを排出する。
 ・環境問題において重要なのは、ゴミを増加させない事だ。
 ・廃棄物の処分が出来なくなった時点、すなわちゴミが最大となったところで、経済成長は止まらざるを得なくなる。
 ・情報の価値を失うという事は、情報ゴミを受け取るという事である。

 どう? だいぶ分かりやすくなったんじゃない?

 ではなぜ、「エントロピー」を「ゴミ」と言い替えるのか。
 A氏はその辺のところも分かりやすく説明している。
 といってもここからは、幼稚園児や小学生にはちょっとムリ。頭のいい中学生ならなんとか。
 脳の軟化が進行しはじめているわしに説明できるかどうか不安だけど、ここでトンズラするのは情けないので、なんとかやってみよう。

 そもそもエントロピーという言葉は、熱力学の研究のなかから生まれたものである。…だそうだ。

「熱とは、物体の温度を上げるエネルギーである」(ボケじじィ注:つまり温度の高い物体から温度の低い物体へ、エネルギーが移動する)

「熱量とは、読んで字のごとく、熱の量を数値で表したものである。つまり移動した熱(エネルギー)の量を数値化したものです。」

 ここら辺りまではまあ何とか分かる。ところが、

「本来のエントロピーとは、熱力学における不可逆性の度合いを、数値化したものである」

 ・・・なんてところへくると、やっぱりな・・・という感じになる。
 といって落ち込んでいても何もいいことないので、要点だけを拾って前へ進むことにしよう。
 
「熱は、温度の高い方から低い方にしか流れない。これを『熱の不可逆性』という」

 不可逆性とは「(一度変化したら)再びもとの状態にもどれないこと」だから、ここもまあなんとか分かる。水の高きから低きに流れるがごとし、ってのと同じようなもんだろうから。

 で、その「熱の不可逆性の度合いを数値で示したものがエントロピーである」というのだが、こうなってくると、わしの頭には少々負荷がかかりすぎるワィ。
 そこをちょいと我慢して、グラグラする歯でしつこく噛んでいると、スルメの筋のようなものが舌の上に残るよ。
 たとえばこんな具合だ。

 沸騰した熱いお湯をコップに入れて常温の中に放置する。
 するとコップの中のお湯はどんどん冷めていくわな。つまりコップの中のお湯の熱は、コップのガラス材と周辺の低温の空気の方へ移っていって、もはや元には戻らない。
 その、移っていって元に戻らなくなった熱の量の度合いを「エントロピー」という。
 それは下記の簡単な式で求められる。

 S(エントロピー)= Q(熱量)/ T(絶対温度)

 つまり、移動した熱量が多くなればなるほど、エントロピーの数値は高くなる。
 「エントロピー・イコール・ゴミ」という先ほどの仮説でいえば、ゴミの量が増える。

 このあと、エントロピーのいくつかの具体例が数式を使って説明されているが、高校で教師とケンカして数学を蹴飛ばしたわしにはほとんど分からん。

 そこで、分からんところは気前よくすっ飛ばして、バーッと先へいこう。
 ・・・って景気良く飛ばしていたら、なんと、結論に着いちゃったよ。

 で、A氏は「結論」でこう書いている。
「・・・という訳で、ここまで読んで頂いた方には誠に申し訳ありませんが、本書の結論は以下の通りです。
 熱力学におけるエントロピーは日常生活には全く役立ちません。(ボケじじィ注:なぜ役に立たないかはすっ飛ばした所に書いてある。興味のある方は原典をどうぞ)
 これが事実なのです。実際エントロピーに関する文献は図書館に行けば山の様にあるのですが、どの文献にも、エントロピーを知れば実生活のこんな事に応用できるという記述は一切ありません。
 (中略)
 昨今エントロピーという言葉を使って、安易に『乱雑さ、複雑さ、混沌、不確実性、均一性』を表す風潮があります。『この部屋はちらかっているので、エントロピーが高い』と言うと格好は良いのですが、極めて主観的な部屋の見た目の乱雑さと、数値で表現できるエントロピーとは、天と地ほどに差があるのです。ましてや前述の例文の様に、エントロピーとゴミを同意語として扱うのはもってのほかです。ゴミならゴミと正確に言えば良いだけの話です」 

 このA氏の結論はわしにもよく分かる。(分かる所だけ拾ったんだから当たり前だけど)
 世の中には、分かりやすく言えば言えるのに、わざわざクソ難しく言いたがる人間がごまんといるもんな。先に挙げた6個の例文も、どうせそういうカッコづけが好きな人間が書いた文章だろう。

 さて、長くなったのでさらに先へ急ごう。
 つまり、(A氏のではなくA氏のサイトを歩いた後での)わしの結論を言おう。
 A氏は「エントロピーを知れば実生活に応用できるということは一切ありません」と結論づけているが、わしにはけっこう役に立つ。

 どんなことに役に立つかというと、わしたち老人の実態を今まで知らなかった方向から見ることができるからだ。たとえばこんな風に。

 人は年をとると、人間としてのエネルギーが(どこへ移るのか知らんが)どんどん減っていく。
 多少の個人差はあるにせよ、これは誰にも免れることのできな絶対的な現実であり、不可逆的である。
 つまり人間は年とともにエントロピーが増大する。
 そしてエントロピーが最大になったと時に、人間は死ぬ。

 ・・・なんちゃって、これじゃA氏が批判していた怪しげな比喩の類いだ。
 だいたいそんなこと、別に “エントロピー” なんて言葉を使わなくたって言えるんじゃないの。

 人間は年とともに(生きものとしての)エネルギーが減少する。
 そしてエネルギーがゼロになった時に、人は死ぬ。

 なんだ、結局、オレ、馬脚、現わしちゃったのか?
 内容ないのにカッコだけ付けたがる人間だってことを、自分でバラしちゃったかも。
 アー、モー、メンドクサ!

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

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