やるべきか、やらざるべきか、それが問題だ(1)

ベランダ菜園

 最近、マンション住まいの人たちの間に、ベランダでプランター菜園というのをやるのが流行しているらしい。
 世の流行にはあまり関心のないわしだが、じつは数年前、このプランター菜園にちょっと食指が動いたことがある。ちょうど今ごろの季節だ。

 というのはわが家の二階のベランダは、サハラ砂漠の真ん中ににいるみたいに遮るものが何もない。太陽光がサンサンと降りそそいでいる。
 にもかかわらず、その、あたらクリーンなエコ・エネルギーをほとんど利用していない。ソーラー・パネルなどいうもおろか、いじけたアロエの植木鉢がひとつ干乾びかけているだけだ。ベランダのほとんどは未利用のまま。地球の損失だ。

 ・・・だけじゃない。コンクリの床は降りそそぐ太陽熱の照り返しで、夏はサウナ同然になる。ベランダに出るのは、炎熱地獄へ足を踏み入れるに等しい。

 そのベランダにプランターを並べて野菜を育て、太陽光をふんだんに取りこませて光合成をやらせれば、照り返しの不快は軽減し、緑は目を楽しませ、育った葉や実(み)は胃袋を喜ばせる。
 いいことずくめではないか!
 ・・・とまあ、アホみたいに単純に考えたんだワね。試しにひとつやってみるか。手始めにはわが好物のトマトなどがよろしかろうと。
 で、よろよろと古びた腰を上げたってわけデス。

 実をいうと、わしにはひとつ悪癖がある。何か新しいことをやるときはまず本を手に取る。決断力のないヤカラがよくやる手だって? そう、よくわかるねぇ。あんたもそのひとりなの?
 で、さっそく図書館から手引き書を一冊借りてきた。

 一読して驚愕したな。その指南書には、この方面に無知だったわしには耳を疑うようなことが書いてあったからだ。
「極上のトマトを育てるには、できるかぎり水と肥料をやるな!」
 そうすると、スーパーなどで売っている通常のトマトに比べて糖度がはるかに高く、トマトらしい酸味と香りのする、実(み)の引きしまった、しかも長もちする上等のトマトが取れる。ビタミンCなどの各種微量栄養素も信じられないくらい高い」と。

 カラー写真が載せてある。水を張ったガラス容器に、同じ品種のトマトが二個入れてある。
 一個は大きくて立派、他方は色は濃いがひと回り小さい。そして前者のトマトは水面に浮いているが、後者は底に沈んでいる。
 前者のトマトがスーパーなどで売られている通常のトマト、後者が水も肥料もほとんど与えないで育てた極上トマトだという。水に沈むのは果肉の密度が高いから。

 いやあ、正直、びっくりしたな。良い野菜を育てるには水や肥料をたっぷりやるというのが、世の変化にうといわしのそれまでの知識だったからね。

 世の中には、何かというと世間の逆を唱えて悦に入る御仁がいるよね。最初はその類いかと思った。でも説明を詳しく読んでみると、これがまた面白いんだ。

 水と肥料をたっぷり与えると、トマトはノウノウと気楽に育つ。丈も高くなり、形も立派で大きなトマトをたくさん実らせる。
 しかしその見かけが立派なトマトは、食べると水っぽい。糖度が低く、トマト特有の酸味も香りもない。ひとことで言えばまずい。そのうえ栄養価も低い。要するに中身が薄いのだ。

 しかし、枯れる寸前ぎりぎりまで水も肥料もやらないという過酷な環境で育てると、トマトは自らの生命の危機、ひいてはおのが種の絶滅の危機を感じて、トマト自身が本来持っている生命力を猛烈に活性化させるという。
 土中のわずかな水分や栄養分を取り込もうと、細かい根をいっぱい張る。(その根のことを「うまい根(ね)」と呼ぶそうだ。うまい根ーミングだ)。
 また、空気中にふくまれる水分まで取り込もうとして、茎や葉はうぶ毛を密生させる。結果、丈は大きくならないが、格段に病虫害に強くなる。だから基本的に農薬は使わなくて済む。

 要するにトマト自身が、個としても種としても必死に生き延びようと努力する。それがトマト本来の生命力を引き出し、美味しくて極上のトマトを作りだす・・・というのだ。

 わし、思ったよ。これ、野菜の話じゃなくて、人間の話じゃないの、って。
 現代は親が子を甘やかして、じゃんじゃんモノを買い与えて育てる。「若いときの苦労は買ってでもせよ」なんて言葉は絶滅危惧種だ。
 このトマトの育て方は、そうした現代の子育てへの手のこんだ警鐘じゃないの? って思ったわけ。

 とはいうものの、素直系従順型でないわしは、「このトマトの話、本当に本当なの?」とすぐには信じられなかった。要するに半信半疑だった。
 同じ生物とはいえ、大きな脳をもったわれら万物の霊長と、脳どころか手も足も無い、従って動くこともままならない植物がまったく同じ原理でこの世に生きてるなんて、容易には信じられなかった。

 それを確かめるには、つまるところ自分でやってみて、検証する以外にない。
 そこでわしの常套語が登場するわけだが「老骨にムチ打って」、この農法(永田農法あるいは緑健農法と呼ぶそうだ)をまずはベランダで小規模に試してみることにしたのである。
 
 すでに長くなったので、その経過と結果は次回で・・・。

ポチッとしてもらえると、張り合いが出て、老骨にムチ打てるよ

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