個人偏差値に生活を支配される
自分がいま住んでいる家の中がじつはまる見えで、生活内容のほぼすべてを知られている。
独り者が風呂あがりに素っ裸のまま冷蔵庫のまえへ行って、缶ビールを取り出してウッハッハと飲むところを見られている・・・というのではない。
貯金はどのくらいあるか、不動産を持っているかいないか、持っているならどのくらいか、さらには暮らしぶりは堅実か、誠実か、約束はきちんと守る人間か・・・といったことを把握されている。しかもそれによって個々人の日常の生活がさまざまに影響を受ける。
・・・としたらどうだろうか。
SF小説の話ではない。中国ではそれがいま現実の話になっている。・・・という報道に触れて驚いた。
中国には巨大な「信用格付け会社」があるという。
ここに、ほぼ全国民(大人中心だけど)の個人データが集約されており、そこから導きだされる個人の人間信用度が、3桁の数字で点数化されて、格付けされているという。
しかもその格付けが、生活のあらゆるところで顔を出す。
つまりさまざまな場面でこの個人信用スコア(偏差値)が参照されて、そのときどきの判断材料として使われる。・・・らしい。
たとえばある男がある女に恋をして求婚したとしよう。
そのとき、もし女が男の個人スコアを手に入れることができて、それがあまり高くないスコアであると分かれば、男は女に振られる可能性が高い。
逆に思った以上に高ければ、首っ玉に飛びつかれて熱い息を吹きかけられるであろう。
あるいは、家や車を買おうとしてローンを組みたいと思っても、スコアが低ければローンを断られることもある。
さらには、就職活動をする必要が生じて、門をたたいた会社が入社希望者のスコアを手に持てば、その人物を採用するか否かの判断材料として利用される。
もちろん「格付け会社」は、保有するデータをみだりに外に出してはいけないことになっている。
しかし中国では、個人情報はどんなに注意しても、どこからか漏れてしまうという。もっともそれは日本でも同様で、情報漏洩事件がかなりの頻度で起きていることからも分かるだろう。
この記事を読んでわしが疑問に思ったことがある。
十数億の人口をかかえる国で、いったいどのようにしてこの個人データを集めたのか、そもそもそんなことが可能なのか、という問題である。
日本の5年に一度の国勢調査のことを考えても、気の遠くなるような大変な作業だと思わざるをえない。日本の人口は1億2000万人余だが、あちらは14億人余だ。そんなことを1民間企業がどうしてやれるのか。
読んだ記事の筆者(日本人)も同じ疑問を抱いたとみえて、当方にもいちおう納得のいく説明をしていた。
中国では今やどんな辺鄙な田舎に行っても、買い物に現金を使うことはほぼないという。道端の屋台でリンゴ1個買うのでも現金は使わない。
ニセ札が多いからということもあるようだが、なにより便利で面倒がないからだ。その結果いまや国民の99.9%が、スマホの「アリペイ」とか「ウィーチャットペイ」とかいったデジタル決済システムを利用するという。
実はこのスマホの決済システムに、個人情報の収集機能が密かに組み込まれているらしい。
なるほど、これじゃ14億をこえようが、放っておいても一網打尽だ。
スマホを持たずに山奥で自給自足の生活でもしないかぎり、確実に情報を取られてしまう。それも蓄積されて日々より正確に精緻になっていく。その情報をAIを使って分析・解析する。頭のいい奴がいる。
もちろん便利でいい面もある。よけいな社会的トラブル(特に金銭トラブル)の何割かは未然に防げるだろう。
大きなところでは、アメリカのリーマンショックのような大被害を社会にもたらすことは、事前に避けられる可能性が高い。
また各個人たちは、自己のスコアを少しでも高くしようとして、努力につとめるのが自然のなりゆきだ。
自己中心的な傾向があると言われるこの国の国民性も、野放図に走り回ることに幾ぶん自己ブレーキをかけるのではないか。
しかしこういう社会は剣呑だ。
生活のあらゆる面で、ITやAIが構築した個人数値に監視され、支配されて生きるというのは、少なくともわしには耐えがたい。
だけど面白い。
少々怖いけど興味がある。
中国は、そして今やこの国が風邪をひけばクシャミをする日本は、この先どう変わっていくのだろう。
どこまで見られるかなあ。
当ブログは週2回の更新(月曜と金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。