暴れる窓
前回、風呂の話をしたので、ついでにもうひと風呂。
わしらどうよう古くなって使いづらくなった住家を、思い切ってリフォームしたら、ドジな失敗を二つやってしまった。その一つがバスタブの選択を間違えて “どざえもん風呂” にしてしまった・・・というサエない話を前回にしたのだが、実はもう一つやりそこなったことがあった。
壊れて用をなさなくなっていた風呂場の窓を、リフォームの際に修理しそこなったのである。
風呂はユニットバスにリフォームしたので、壁面についていた壊れた窓も当然新しくなると思っていたら、きちんと契約書にしておかなかったのがいけなかった。
あとで業者が言うには、窓は建物(マンション)のコンクリート壁に取り付けられた構造的なもので、今回のリフォームの扱う範囲を超えていたという。
業界のプロに専門用語をならべて言われれば、シロートはなかなか対抗できない。
この窓はいわゆる「内倒し窓」で、底部の2ヵ所が蝶つがいで窓枠につながっており、窓は半円形に内側に倒れる形で開閉する。上部に鍵が付いていて開閉を制御するのだが、その鍵が完全に壊れてしまって、用をなさなくなっていたのである。
風がないときは大人しくしていて別に問題はないのだけれど、少しでも風が吹くとわめき出す。まるで4,5歳の聞き分けのない子供が手足をバタバタさせるようにうるさい。
昔の家のように木造の窓ならシロートでもなんとか対処できるのだが、頑丈なステンレス製の相手ではDIYの手には負えない。
だが、それで手も足も出ず、駄々っ子のやり放題というのではいかにも情けない。かといって少なくない額を新たに支払って別工事として業者に発注するのはムカつく。
なんとか金を使わず、わし自身の手で問題を解決してやろう・・・と、どうでもいいところで妙にイキリ立った。
成算がないわけではなかった。見場は少々わるいが針金をぐるぐる巻きつければ、少なくとも風でバタバタと暴れるのは抑えられると思ったのである。
だが問題の窓は、壁面のかなり高いところに位置していた。
長い足を所有しているとは言い難いわしの身長では、手が届かない。かといって脚立とか椅子を足元に置いてその上に乗ろうにも、直下は浴槽で足場がない。
結局、バスタブのふちの上にあがって、作業する以外になかった。
とはいうものの、わしは80歳を過ぎたあたりから体のバランスがひどく悪くなっている。地上の平らなところでも、ままフラフラする。
このときは脳梗塞をやる前だったのだが、それでも高いところに上がって何かするのは不安だった。
カミさんは強硬に反対した。
「なに考えてんの。いい年をして、バカなことはやめて!」
と、呆れた顔をした。
だがそんな顔をされれば、よけいやめられなくなるではないか。
確かに、ソートー馬鹿げた所業であることは間違いなかった。数ヵ月前も電球を替えるのに脚立にのぼって危なかった。
ヘタをして落ちて、浴槽のへりとか、水道の蛇口に頭をぶっつけて血まみれになる可能性はなきにしもあらずだった。
自分でも分かっていたが、分かっていてもやめられないことはある。
そこで慎重にも慎重を期して、ゆっくりと浴槽のふちの上に立ちあがった。
想像したよりも高かった。やはり今にもバランスが崩れそうだ。
わしは恥を忍んでカミさんを呼んだ。
そして後ろから尻を支えさせた。
80を過ぎた爺さんが、浴槽のふちにヨロヨロ上がり、フラフラする尻をこれまた80近い婆さんに下から支えさせる・・・なんて図は、まあ、どこから見ても人に見せたくない光景である。
しかしまあ幸い、なんとか作業をやり終えた。
血も流さずにすんだ。
以後、風呂場のガラス窓は、うるさく言わずにおとなしくしている。
それにしても、年を取るっていうのはメンドーだねぇ。
若い頃ならこんな作業は3分あれば済んでいたよ。
当ブログは週1回の更新(金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。