雷が来たら窓を閉めろ!
今年の夏は雷さんの来訪が頻繁だ。
例年よりだいぶ多いらしい。8月21日には、愛知県だけで1日に6,900発の雷が落ちたそうだし(落雷を1発2発と数えるのかどうかは知らんよ)、東京西郊・二子玉川の「多摩川花火大会」は、突然の激しい雷雨で急遽中止になって、観にきた観客は花火は見られんわズブヌレになるわでふんだりけったりだったらしい。
もっともなかには、ヘタな花火より凄い稲妻が見られて面白かった、という人もいたようだ。
野鳥研究家で文学者としても知られた中西悟堂(1895生~1984没)は、雷が大嫌いだったと随筆『フクロウと雷』に書いている。
彼は西荻窪に住んでいたが、雷が遠くの方でゴロゴロいい始めると、それだけで落ち着かなくなり、仕事も手につかなくなった。
そのうち居ても立っても居られなくなり、中央線の電車に乗って新宿へ出る。地下道へ逃げ込むためだ。(当時、地下鉄はまだ西荻窪には来ていなかった)。
もちろん遠雷のままで終わる場合も少なくなかった。新宿行きは完全なムダ骨折りになるわけだ。にもかかわらず、悟堂先生は雷が鳴るといつもこの行動をくり返したという。
これは、彼がいかに雷嫌いだったかというエピソードとして語られるのだが、品性下劣なわしはまったく別の想像をしてしまう。
実は新宿には好きな隠し女がいた。つまり雷はたんに口実に使われただけだった・・・。(断っておくが、これはあくまでわしの想像だよ)。
ところでわがボケ島にも、中西悟堂先生ほどではないが雷嫌いの人間がいる。わしではない。ということは女房だな。
彼女は雷の音にひどく敏感だ。近ごろは老人性難聴の気味があるにもかかわらず、わしの耳にはなにも聞こえないのに、突然「あ、雷が来た!」と不安そうな声を出す。気のせいだよと相手にしないでいると、5,6分もするといつも遠くのほうでゴロゴロいい出す。
すると彼女はあわてて家中の窓を閉めてまわる。しっかり施錠もし、まちがいなく掛かったかどうかを確かめる。
彼女のこの行為は、雷雨に伴なう雨風の吹き込みをおそれてのことではない。文字どおり雷様が入ってこないようにするためだ。つまり雷様を締め出すためなのだ。
彼女の頭のなかでは、「ヘソを取りに来る雷様」がまだ生きているのかもしれない。