脳梗塞の急襲(その9)
●看護師サマ,サマ
(脳梗塞シリーズのこれまでの回はこちら→①、②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧)
わしの母親は60歳代の半ばに(・・・ということは今からほぼ50年くらい前になるが)大きな病気にかかって半年近く入院生活を送った。
そのころ母親がさかんに口にした言葉があった。今でもよく憶えているが、何と言っていたかというと、
「お医者さまは神様、看護婦さんは天使さんよ」
というのだった。
息がしづらくなるつらい病気だったこともあるだろう。が、母親だけでなく、ほかにも大きな病を患った人のなかに、同じような言葉を口にするのを耳にしたことがある。
わし自身は大病の経験がなかったので、病気がホントに辛いとそんな風に思えるのだろうなァ、とばくぜんと想像するだけだった。
で、今回、一ヵ月近く入院生活を送る経験をしてみてみて、どう思ったか。
お医者さんも看護師さんも、神や天使には見えなかった。
医師も看護師もやはり人間だった。当たり前の話だけど。
まあ人間は自分の置かれている立場によって、同じものを見ても見え方が変わる生きものだ。わしの病気がそこまで苦痛を伴うものではなかった・・・ということもあるかもしれない。
一方、政治家を見ればわかるように、職業が人間性をつくるという一面は確かにある。医療という特殊な職業を通して、優れた人間性が涵養された医師・看護師は、政界や官界などに比べれば数は多いかもしれない。
入院する患者がいちばん多く接するのは、医師よりも看護師である。
その看護師をよく見ていると、しんどいことも汚いこともしなくてはならない仕事であるにもかかわらず、まだ若いといっていい20代~30代の看護師が、よくやっているケースを見ることははけっこう多い。
だからといってわしには天使には見えなかった。いっしょうけんめいやっている姿のなかに、人間がさまざまな顔を見せていた。もちろんこれも当たり前だけど・・・。
看護師個人による違いがいちばんよく分かるのは、その人が患者のことをどれだけ心から思って仕事をしているか、または単に給料の代償として仕事をしているか・・・という違いである。これが患者からは意外によく分かる。
たとえばオシッコがしたくなって採尿を頼むとき、あるいは食事のさい食べ物をこぼし易い人が使い捨てのエプロンを頼むとき・・・というような極めて小さなことでも、その外見での応対がまったく同じに見えても、どのていど気持ちがこめられているか、その微妙な違いがよく分かるのだ。
もちろんこれはどの職業でも同じで、現実からいえば、自分の仕事に給料以上の心をこめてやる人など極めて少ないのだが、看護師の場合はとりわけその微妙な違いが実によく分かる。
それは接する患者側が、例外なく弱い立場の人間だからだろうと思う。目の見えない人の聴覚が鋭くなるのと同じで、弱いがゆえにそれを埋め合わす本能的自衛の一つではないかと思う。
一方看護師の立場からすれば、患者は十人十色・百人百色である。ヤモリのような人からナマケモノのような人までさまざまだ。
しかも病人は多く気持ちの抑えがきかず、地金が出やすい。なかにはよくぞここまで・・・というような根っからイヤなヤツもいるし、たまたまウマの合わないのもいる。
それでも看護師たるもの、相手によって扱いを変えたり差別したりしてはいけないと、養成時に徹底的に教えこまれいるだろう。が、看護師だって人間だ。どんなに表面を糊塗してもどこかに本音が出る。
看護師によく見るのは、次のような言動の人だ。
患者に接し始めた最初のうちは、柔らかく優しい対応をしているが、その患者がわがままだったり言うことがくどかったりすると、かすかにだが口にする言葉が変わってくる。荒っぽくなったり突けんどんになる。が、しばらくすると、はっと気づいたように元の優しい言葉づかいに戻る。イケナイ、イケナイ、と気づいて自制するんだろう。そういうところはいかにも人間的で、わしは好きだ。
ほとんどが女性だからだろうが、看護師は可愛いげのあるお爺ちゃんが好きだ。・・・とわしは思う。アンケートを取って確かめたわけではないから絶対とは言わないけれど、態度が立派でわがままを言わないが面白みのない人より、少々わがままでも言動が子供っぽく単純で無邪気なお爺ちゃんのほうが、どうも好まれているように思える。
わしなどそういう風にカワイク生まれなかったので、ソンをしているなァとといつも思っていた。今さらどこかに文句をつけるわけにはいかないから仕方ないけどサ。
当ブログは週1回の更新(金曜)を原則にしております。いつなんどきすってんコロリンと転んで、あの世へ引っ越しすることになるかもわかりませんけど、ま、それまではね。
いつも楽しいコメントに関心しています。どうしてそんなにお上手なのですか?時間は何分位かかるのでしょうか?最初のタイトルとかその都度出てくる絵もそうですが、感心しきりです。失礼を承知で書いてしまいました。
どうかお許しください。